姫には厳しい時代

 透かしの弱いペーパーライク・フェイスベール越しにDVDの列を物色する。ヴァンダム、シュワちゃん、ヴァンダム、シュワちゃん、セガール、ヴァンダム、ウェズリー・スナイプス。古い。偏ってる。それでも配信サイトが主流の今時、高校から駅までの道にレンタル店が生き残っていることは幸運だ。
 借りる作品を簡単には決めない。任意の文化作品を選んで学習させるだけで良いライフ・スクリプトとは違い、私自身が映画を見るには時間の限界がある。ハズレのダメージは財布より手番に来る。
 ベール型のコムプロ――ライフ・スクリプトが形成した健全な人格としての台詞と行動を表示する、親切すぎるゲームのようなコミュニケーション・プロンプター――は、今年公開された学園恋愛ものを提案している。十代女子に人気の作品、クラスメイトの9割が視聴済みです。さぞ面白いのだろう。ファックオフ。
 なおも迷い続けていると不意に、棚で仕切られた区画の端から人が近付いてきた。同じ制服姿のはずだが随分大人びて見えるのは、スタイルの違いか意識の差によるものか。JKは目の前で立ち止まり、私のベールを勝手に押し上げた。居酒屋の暖簾のように。「やってる?」
「セクハラで訴えるね」
 私が悪い目つきのまま睨むと、有沙は大きな目を細めて笑った。まるで効いちゃいない。分かっていたが。
「ファイがそんなの付けてるから遊びたくなるんでしょ。両面カンペて。ビジネスマンなの?」
「良いんだって、結局これが一番。社交的に見られるし、楽だし」
「ホントは捲られたいくせに?」
「有沙になら、ね」
 デレてみる。カンペを捲られた以上、台詞が提案されることはない。失言・犯罪・反マナーを抑止するコムプロの着用は衣服と同レベルの常識だが、親しい相手なら必要ない。
 有沙の方もコムプロを貼り付けた右手を背中に回している。立場は公平。頭にベールが乗っている私の方がかなり間抜けだが、それは何もなくてもそうだ。 【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?