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オブザイヤー2022

 今年の良かったもの、人と話したこと、まだ話したいこと、もっと話したかったことの個人的総括をします。ノージャンル。数の規定もなし。思い出オブザイヤー。

ひだりききクラブの自由律俳句交換日記

 出雲にっきさんとすずめ園さんの自由律俳句ユニット「ひだりききクラブ」によるnoteマガジンです。
 お二人が交互に投稿する自由律俳句の生活感と新鮮さは素直に楽しく、相手への感想が醸す交換日記の雰囲気は非常にスリリング。ポップな自由律と気軽に見ていられない感覚を両立する凝った構成に痺れました。
 ゲスト出演されたラジオから存在を知り、noteを読み始め、直近で出店された文学フリマで物理書籍を拝読、さらにその件を前出のラジオに投稿し読まれる……と循環したのも嬉しかったですね。頒布物には旅行記もあり、その中に2018年の東岡崎駅が登場するという符合が発生してびびり散らかしたりもしました。


かなりラブライブだった

 2022年にラブライブの話をしています。テレビアニメでは「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2期」「ラブライブ!スーパースター!! 2期」があり、ライブやイベントは三タイトルがそれぞれに敢行する競合やむなしの構え。本体の加速は明らかで、意外と本当にラブライブの年だったような気がしています。
 私個人が参加したのは去年末からの年越しカウントダウンライブ(希少性が高く効率も良かった)とAqours関連を三つ(死・寒かった3月のベルーナドーム、終演後ホテルで虹ヶ咲二期最終話になだれ込んだ6月の東京ドーム、とても変で笑えた沼津のラジオ公開録音)とお台場ニジガクバス(現実の景色を巡りながら劇中キャラクターのアナウンスを聴くオーバーレイ体験)のテスト走行、新機軸の「スクールアイドルミュージカル」(シリーズらしいパワフルな展開と舞台上を"そういうもの"とするミュージカルの相性の良さ)のみで、スケールの大きさと景気の良いステージに元気を貰いつつ、この程度では本当に"のみ"にしかならないことに巨大コンテンツのパワーを感じたりしました。

ラブライブ!サンシャイン!! Aqours 6th LoveLive! ~KU-RU-KU-RU Rock 'n' Roll TOUR~ <WINDY STAGE> 、東京ドーム

 イベントを一回や二回取りこぼしてもコンテンツの将来に影響しない気楽さ、その時その時の温度での付き合いやすさがある、とも言えますが、もちろんこれはただの誤認で、先のことは誰にも分かりません。寄らば大樹の陰と言い、倒れにくい大樹の下が楽なのは事実ですが、枝先の葉の一枚一枚が落ちるのは簡単で、個々のイベントを見れば次があるとは限りません。そして枯れない樹木もありえない。今はせめて、良い思い出が少しでも多くあれと祈るばかり。


国立新美術館開館15周年記念 李禹煥

 韓国出身の美術家、李禹煥(リ・ウファン、1936‐)の記念展です。美術館はわりと好きで、とはいえ2022年は5回しか見に行ってないっぽいのですが、その中でも特に印象深い展示がこれでした。パターンを見出しやすい親切な作品と広く場所を使った展示の噛み合いが抜群で、つまりとても見やすかった。集客や評価がどうだったのかは知る由もありませんですが、ちょっと珍しいぐらい現代美術入門に適した内容だった気がします。とても助かりました。

李禹煥《関係項─アーチ》/国立新美術館

《関係項》と題された一連の静物作品(色々な大きさの岩が色々な趣向で置いてあります)が、世界を捉えるときに距離という問題を重視したがる……と思しき私自身の最近の傾向と符合した感じがします。巡回展ではないようですが12月現在は兵庫で李禹煥展があるようです。結構本当におすすめ。


愛はハイテンション

 降幡 愛さんの異常に凝った3rd Live。圧巻のSFでした。降幡さんはいつでも僕を新しい場所に連れて行ってくれる……。


フォロラジ

 小島優さんとのらのらンさんによるネットラジオです。お二人がTwitter上で交流のあるゲストを呼んでトークするというゴリゴリの内輪コンテンツなので広く知らしめるべきでもない(とても失礼)とは思うのですが、登場する皆さんの好きに真摯な語り口はかなり聴きごたえがあります。話題のコントロールもスムーズでシンプルに面白い。ゲスト回以外では#7のお二人でライブに行った感想を話す件がとても好き。芸人ラジオで話される番組収録の裏話のような質感がありました。公開録音、待ってます。


ぼっち・ざ・ろっく!

 いや-、凄いアニメでしたね。素直に格好良い音楽と不思議なほど見やすい画面、キレキレの奇行と心が熱くなる青春の日々。良い作品にしようという志の高さが嫌みなく伝わる爽快さ。青山吉能さんに関しては「金曜日のしじみ」(天国のような地獄絵図が繰り広げられるポッドキャスト)で毎週お声を聴いていることもあり、ご活躍の嬉しさも勝手に加味していました。
 個人的な体験で言えば、#9「江ノ島エスカー」に先手を打って江ノ島巡礼を敢行できたことも有効でした。やはり体験があると記憶が強くなります。新江ノ島水族館が楽しすぎて江ノ島の滞在時間は一時間足らずでしたが……まあこういう機会でもないと一生乗らなかっただろうし……。

新江ノ島水族館イルカショー
江の島エスカー


精神と自然

 1979年に出版(日本では1982年に刊行)、2022年に文庫化された思想書です。本の話もしたいな、と思って出てきたのが小説じゃなかった。もうダメかもしれない。そんなことないよ。わりと本気で心の一冊になったんですが、何の本かと言い切ることは難しい。表紙の概説を引用します。

私たちこの世の生き物すべてを、片やアメーバへ、片や統合失調症患者へと結びつけるパターンとは? 日常の思考の前提を問い直し、二重記述、論理階型、散乱選択といった道具立てによって、発生も進化も学習も病理も包み込むマインドの科学を探究したベイトソン(1904-80)。そのエコロジカルな認識論の到達点を自ら語った入門書。

精神と自然──生きた世界の認識論 著:グレゴリー・ベイトソン 訳:佐藤良明 岩波文庫 2022年

 らしいです。知らない言葉が並びすぎて何に入門させられるのかも分からない。著者の思考をあっちこっちに追うような構成で、実際内容の1/3ぐらいはかなりねむたーいのですが、こちらの頭に溜まった情報の澱を文章化してくれている感覚もあり、読み心地は意外とスムーズでした。気に入った様子はTwitterからも窺えます。


映画について

 例年、オブザイヤー記事では映画に触れることが多かったんですが、今年はここで一括です。いわゆる「刺さる映画」にはぶつからなかったという実感があり、特に年間ベストとかもありません。年間の鑑賞本数は90本弱と平年並、「スパイダーマン:ノーウェイホーム」「トップガン マーヴェリック」「NOPE」「RRR」「映画 ゆるキャン△」「すずめの戸締まり」「THE FIRST SLAM DUNK」あたりの大作をしっかり楽しめたので年の平均値は高く出ると思うのですが……。こういう年はたまにあります。ただの波かも知れませんし、感受性が鈍化しているのかも知れません。許せないですね。
 癪なので今年見た中から好きな映画を並べます。誰にとっても面白い!超オススメ!ということは特になく、しかしどれも何かしらの味がすることは確かです。良ければ。

 名付けようのない踊り

(2022年/監督:犬童一心/日本)
 舞踊家、田中泯の半生と現在を、本人のインタビューを軸に映したドキュメンタリー。映画として面白いかと聞かれればそれはもう、存命人物のドキュメンタリーですからそれはもう……。誠実な内容には違いなく、「名付けようのない踊り」というタイトルも"田中が自分自身を呼称する言葉"から来ているようです。

オドリは個人に所属できません/私は「名付けようもないダンス」そのものでありたいのです。

田中泯オフィシャルサイト

 1966年に踊り始め、50年以上踊り続け、70歳を超えた今も踊っている人の一挙手一投足と言葉に興味があれば是非。

 正直この噛み合いが熱かっただけかもしれない。

 フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊

(2022年/監督:ウェス・アンダーソン/アメリカ)
 架空の雑誌「フレンチ・ディスパッチ」のとびきりユニークな記者たちと豊かな記事からなるオムニバス。数奇としか言いようがないシュールさを存分に発揮しつつ、美しい背景と端正な画角、目まぐるしい展開、豪華なキャスト、さりげなく派手なアクションと映画の楽しさもたっぷり詰まっています。上質で変。愛おしい大作。これは普通におすすめです。

 林檎とポラロイド

(2022年/監督:クリストス・ニク/ギリシャ・ポーランド・スロベニア合作)
 一人の男が疫病によって記憶を失い、新しい生活をポラロイドカメラで記録していく、柔めのSF。良い邦題です(原題:Mila、ギリシャ語で林檎)。展開にひねりは少なく、大きな謎が解かれるなどの盛り上がりもなく、だからこそ場面と動作の意味がよく伝わります。こういう作り方もある。心地良かった。

 カモン カモン 

(2022年/監督:マイク・ミルズ/アメリカ)
 ラジオ。デイズ。記憶と記録、去る者と残るもの。

 MEMORIA メモリア 

(2022年/監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン/コロンビア・タイ・イギリス・メキシコ・フランス・ドイツ・カタール合作)
 またしても未確認飛行物体で地球を去るティルダ・スウィントン(ネタバレ)。したい話しかしない徹底した姿勢がバチクソ眠くて良かったです。

 戦争と女の顔

(2022年/監督:カンテミール・バラーゴフ/ロシア)
 何も書けません。何も書けない……。今年見た中で一番強かった。奇跡的に配信が来たら騒ぎますので教えてください。

 さかなのこ

(2022年/監督:沖田修一/日本)
 いやー、良かったですね。見られて良かった。ミー坊も家族も友だちも全員良かった。感情に流されすぎない劇伴もばっちり。千葉の海を中心とした良いシーンの連続で素直に笑ったり泣いたりしました。鼻につきそうな要素をしっかり制御しつつコメディの間を取る冷徹な技術もお見事。

 エクソシスト

(1973年/監督:ウィリアム・フリードキン/アメリカ)
 1973年!? 激渋激熱暴力映画。本編よりこれが流行った時代が怖い。


ガールズ ラジオ デイズの公式サイトが閉鎖されました

 2018年に始まり、僕個人は2019年から注視してきたNEXCO中日本のネットラジオ番組「ガールズ ラジオ デイズ」の公式サイトが閉鎖されました。人生で唯一同人誌の頒布まで行き着いた作品なのでもうめちゃくちゃに打ちひしがれたい……のですが、公式サイトの記述はニコニコチャンネルにほぼ移管され、公式Twitterの更新も続いています。

 なにも分からない。デイズは終わるまで終わらない。


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