見出し画像

サキの話

今日は私の大学時代の友人の話をします。急ですみません。暇なもので。

でもね、このサキという友人、すごいですよ。面白い。大好きです。私。書いてたらにやけてきた。ムフ。私の拙い文章力で、彼女の魅力が伝わるといいのだけれど。


サキと私は、大学の専攻が同じでした。専攻ごとに集まるオリエンテーションで、私は初めて彼女を見ました。見た目、普通。とても普通。メガネをかけた、真面目そうな女の子。ただ、配布されたプリントの上を走る文字が、ものすごく大きくて、エネルギーに満ち溢れていて、そして何より、

全く話の内容に沿っていない。

びっくりでしょう。ねえ。この度、太字機能を習得いたしましたよ。ひゅう。え?そんなことはどうでもいい?失礼。話を戻します。ねえ皆さん。入学したての4月ですよ。入学したての大学生がね、メガネをかけた真面目そうな女の子がね、先生の話を聞きながら、プリントの上で必死にペンを走らせていたら、こりゃ十中八九、先生の話のメモですよ。でも、彼女は違った。そこには何が書かれていたか。彼女の思考の足跡です。先生!!ここです!!天才はここにいます!!!

そう。サキはある意味天才でした。県内1位の進学高出身で、運動部では県選抜入り。まさに文武両道。(なぜうちの大学に来た?)そして、本物の1位がしばしばそうであるように、彼女もまた、機械的な勤勉学生ではありませんでした。

例えばあれは、大学2年生のある日。私たちは教育系の専攻だったのですが、サキちゃん、マット運動の授業を履修していました。その日はとってもあったかくて、お昼寝するにはもってこいの日差し。マット運動の授業を前に、すっかり眠くなってしまったサキちゃん、「頼みがあるの。」と目を細めたまま言いました。
片手には、黒のサインペン。

「目、描いてくれない?」

私ですか?そりゃあ、描きましたとも。ええ。サキの両まぶたに、大きくて、曇りなき眼を。周囲の視線?気になるなんてもんじゃありません。サキの思考回路?そりゃあ周囲の視線の比じゃないくらい気になりましたよ。ええ。いくらマットに転がってれば成立するからって。ねえ。正気の沙汰じゃない。マンガかよって。でもね、描いてみたら「あれ、意外と、バレないんじゃない?」な出来映え。ありがとうありがとう。お褒めに預かり、光栄です。

そんなおちゃめな一面もある彼女。お察しの通り、サキは、考えることと、それを実践することが、人並み以上に好きでした。思い立ったが吉日。そう。まさにそういうタイプ。

例えばある日、寮生活をしていた彼女のもとに、実家から大量のじゃがいもが届きました。サキは考えました。このじゃがいもを植えたら、私にもじゃがいもが収穫できるのかしら。サキはいてもたってもいられなくなって、寮の敷地の一角を、掘って、掘って、耕して、じゃがいもを植えました。おそらく、無許可で。寮母さんって、そういうの、怒らないものなのかしら。
ちなみにそのじゃがいもの世話を終えたサキが、食堂で食事をしていた友人を見つけ、嬉々として食堂に駆け込んだとき、実はその入り口、網戸がぴっちりと閉めてありまして、あわれなサキちゃん、食事をしているみんなの前で、笑顔のまんま網戸に激突。網戸崩壊。それはさすがに寮母さんに怒られたそうな。

サキは、いつだって全力で、本気で、真面目でした。それはもう、周囲が思わず笑ってしまうくらいに。興味のあることをとことん掘り下げ、興味のないものには見向きもしない。だから、大学4年生の夏、もう息さえしていれば卒業できるという頃に、ウミガメの産卵に惹きつけられた彼女は、迷うことなくすっぱりと、大学をやめてしまいました。



終わりですか?終わりです。かくしてサキと私の物語は、ある日突然ぱたんと終わりを迎えるのです。そう、まるで太宰治の「羅生門」のように。すごいでしょう、サキ。面白いでしょう。サキの行方は、誰も知らない。私も、知らない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?