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Numero TOKYO おすすめの4月の本(の補足など)

『Numero TOKYO』でのブックレビューが公開されました。今回は『ピエタとトランジ〈完全版〉』(講談社)『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)『彼女の体とその他の断片』(エトセトラブックス)の3作品をご紹介しています。

藤野可織さんの『ピエタとトランジ〈完全版〉』ですが、わざわざ私が言うまでもないですが、本当に最高です。岸本佐知子さんが帯に寄せている「最強最高の女子バディ物語。」の言葉にマジ偽りなしです。

ネタバレになってしまうので詳しくは書けないのですが、今の世相とリンクするような部分もある物語だったりもします。先行きの見えない状態に息苦しさを感じている人は、読むとスカッとするかもしれません。少なくとも私は読み終えた後、心がか〜なり軽くなりました。作中に登場するメロンソーダを飲みたくなるわ、バームクーヘンとかクッキーとかバニラアイスとかを猛烈に食べたくなっちゃいましたが(笑)。あと松本次郎さんによる装画・挿画(12章分!)も最高なので、ぜひ!

なお、レビューの見出しとして「家父長制をも崩壊させる、最強の女子バディ探偵譚」と書いたのですが、確認&記事の掲載許諾をいただくために担当編集者さんに原稿を送った直後、まだ発売前だった『群像』5月号掲載の山内マリコさんによる書評のタイトルとかぶっていることが判明して、ひっくり返りそうになりました……(担当編集者さんにも驚かれた)。

山内さんによる書評は『群像』のサイトでも掲載されているので「末端ライターのレビューなぞ、あてにならんわ!」という方は、こちらをぜひ。

『ザリガニの鳴くところ』は2月末に早川書房さんからご恵投いただいていたのですが、ちょうどその頃に動物行動学に関する原稿をあれこれと書いていたせいか、読み始めたばかりの頃は動植物に関する描写に目がいきがちでした(著者は動物行動学博士/動物学者ということもあってか、動植物へ向ける眼差しが、人間の身勝手な思い込みゼロで実に素晴らしい)。

でも物語が進むにつれて、ミステリとしても主人公のカイアの成長譚としても先が気になって一気に読んでしまいました。同じことをSNSで書いている人もいますが、読了後に胸に残るなんとも言葉にしがたい気持ちは、作品を読み終えた人としか分かち合えないんですよ、本当に。

もし、あなたの身近に『ザリガニの鳴くところ』について語り合いたがっている人がいたら、ぜひ『ザリガニの鳴くところ』を読んだ上「語りあおうぜ!」と声をかけてみてください。これ、かなりの高確率で喜ばれると思います。というか、俺も語り合いたい。

そして今回、原稿を書くのに一番エネルギーを使ったのが『彼女の体とその他の断片』。いや、俺の脳みそがポンコツだからというのもありますが、もう収録されている8篇、本当に作品ごとにトーンが全然違うんですよ、この短編集は! どの作品も同じ種から芽生えたはずなのに、姿形も色も香りも全然違う花が咲きみだれちゃってるよ!とでもいうか(要は読んでいて、はちゃめちゃビックリさせられる)。

原稿中でも触れていますが、これまた今の世相を思わせる作品が(しかも2篇も!)収録されています。そのうち1篇の「リスト」(松田青子さん訳)は2020年4月13日時点では、まだ無料公開されているので、気になった方はぜひ読んでみてください。語り手が過去に体験した、とあることの記録かと思いきや、とんでもない光景が浮かび上がってきますよ!

先月は「春のガイブンまつり」状態で、今月はなんだか「春の才女による名作まつり」みたいなセレクトになりましたが、3作品あわせて読んでみても楽しいと思います。多くの書店さんが閉まっているという、なんとも悲しい状態ですが、電子書籍なりネット通販などを駆使して入手いただければ幸いです。こういう気持ちがふさぎこんでいるときほど、物語(フィクション)の力はプラスの方向に作用してくれるはずですし。

何はともあれ、今月も素敵な読書タイムをお過ごしください。


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