さすがに時代遅れか 伊丹十三 岸田秀 『哺育器の中の大人: 精神分析講義』

(2020年の3冊目)Amazonを見るとすでに絶版。でも、このまま絶版でも良いかも。もとより精神分析に傾倒して以降の伊丹十三の著作にはそれほど感心があったわけではなく、一昨年、伊丹十三記念館に行った際に「そういや持ってなかったなあ」と買い求め、積みっぱなしにしていたのだった。伊丹十三が岸田秀に精神分析の講義をお願いする、という対談本。

改めて岸田秀のプロフィールを読んでみると、精神分析を専門的なカリキュラムにしたがって勉強したわけでもなく、臨床に携わっていたわけでもない、フロイトの本を読み漁っていただけ、という人が「精神分析の専門家」として扱われているところに時代のおおらかさを感じもなくもない。今ならすぐ学歴詐称的な問題で炎上しそうな話だ。『ものぐさ精神分析』は高校時代に読んだ気がするので懐かしい名前でもあった。

さて、岸田流の精神分析はといえば「人間は本能が壊れている」、「人間の認識世界なんかすべて幻想(だからくだらない)」という論調にすべてをまとめることができてしまう。「認識世界がすべて幻想である(現実を認識することはできない)」という論じたいはカント以来の相関主義的な構図なのであって、それ自体が目新しいものではない。それが1970年代にはヒットに繋がったところには、当時の日本における精神分析理解の水準が現れているし、また、その雑さがちょうど良かったのではないか、と思う。

世界がすべて幻想であってもリアリティがある(のだからくだらなくない)、というモードの現代においては、岸田秀の物言いはあまりにも時代遅れに感じてしまう。

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