村上春樹を英語で読み直す 『海辺のカフカ(Kafka on the Shore)』

(2020年の29冊目)今年の2月ぐらいからちょっとずつ読んでいた『海辺のカフカ』の英訳を読了。村上春樹を英語で読み直したのはこれが4作品目。

学生時代に図書館で借りて読んでたのだが、後半は返却期限が迫っていたかなにかでめちゃくちゃいい加減に読んでいたのがずーっと心にひっかかっていて、いつか読み直そうと思っていたのだった(単行本はブックオフの100円コーナーで何年も前に回収していた)。主人公のカフカ少年がセックスをした翌日にシャワーを浴びていてペニスが痛くなる、という箇所だけ異常によく覚えていた(しかし、そうなる経緯は完全に忘却)。

手法的にもいろいろと仕掛けが仕込まれた作品で、自分も学生時代から比べたら多少は本が読めるようになっているし、知恵も蓄えていたのでまた違った読み方ができるようになっている。とくにベートーヴェンの《大公トリオ》について喫茶店のマスターが講釈を垂れるシークエンス(これもよく覚えていた)では、重要キャラクターである星野青年の役割がこの曲を献呈されたルドルフ大公の役割とオーヴァーラップするようで、なるほど、だから《大公トリオ》だったのか、と感心する。

ひょっとするとコレが最高傑作か? 河合隼雄的な精神分析のアイデアが根底にあり、暗喩的な(か、どうかもはっきりしないのだが)近親相姦が描かれるなどかなり気持ち悪い話ではあるのだが、ギリシア文学や日本の古典文学(『雨月物語』の引用とかここでもやってんのね)を引き込んでくるやり方は、20世紀文学っぽい。地理的な移動距離の長さも村上春樹の作品中で最大規模なのではないか。何年も前の話になるけれど仕事で四国の高速道路を走らせる機会を得ていたから、その距離感も体験ベースで理解できる。

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