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揺るぎなきアカウント【1ー2】

ゲームの裏技がある理由・・・

改めて考えたことがなかった。眞山がパッと思いついたのは、ゲームを有利に進める為の裏技。ゲーム内のお金やライフを不当に増やしたり、キャラを強化させたりするもの。
あとは裏ステージや裏ダンジョンといった、クリア後のお楽しみ的なものだ。
「そうだなー、例えばアイテムの増殖とか、レベル上げ、金稼ぎ、序盤で最強装備みたいな、まあゲームを有利に進める為かな」
神崎がこういった質問をした以上、そんな単純な理由ではないかもしれないが、とりあえず言ってみた。
「それはユーザーの為だと思う?」
「え?そんな楽しみ方もあるよってことじゃないの?」
どうやら違うらしい。
「おそらくはだけど、初めは製作者側の為に作られたんだと思う」
「・・・どういうこと?」
神崎はチラッと時計を見ると、ラーメンの紙の蓋を剥いで、残りのスープの元を入れながら続きを話す。眞山も同じくラーメンを作る。

「ゲームを作る側にとって、テストプレイってのは絶対に必要な作業だ。販売された後にバグが残ってたら大変なことになる」
「・・・うん、たしかに」
「昔のやつでは、野球ゲームでバントをしてもホームランになるとかあった」
「あー、聞いたことある。その雑な感じが今となっては面白いけどね」
「そんなギャグみたいに済むものならいいけど、ゲームが進行出来ないようなバグなら大変だ」
「進行出来ない?」
「ああ。仮に野球ゲームなら、何回アウトを取ってもチェンジにならないとかね。そうなると、もう販売中止や返品買い取りなんてことになる」
「はあ、そりゃ大変だ」
「長い年月と、数億円かけて作ったゲームが水の泡。それどころか負債を負う事態になる。アプリゲームみたいに、後からバグ修正したので再ダウンロードして下さいって訳にはいかない」

神崎はラーメンをすすり、眞山に貰ったノンアルコールビールを開けた。飲む前に軽く缶を目線の高さくらいに挙げて、頂きますというそぶりを見せた。
「そこでだ。綿密なテストプレイが必要となる。これが超~めんどくさい!」
「へー、そうなの?なんかテストプレイのバイトとかあるし、ゲームやってお金貰えるなんていいバイトだな~って」
「デバッカーってやつね。それがそう簡単じゃない。例えばこの敵を倒したら、すごい低い確率でレアアイテムが手に入るとする」
「・・・うん」
「本当に手に入るかどうか、実際にプレイして手に入るまでやる」
「はぁ・・・」この説明だけで一気に面倒な作業だと伝わりため息が出た。
「ちなみに今俺がやってたテストは、全ての敵が決められた場所から出てきて、決められた動きをして、決められたライフになっているか」
「決められたライフ?」
眞山はラーメンの麺を食べ終え、スープだけ残ったカップをテーブルの上に置いた。
「ああ。この敵は通常弾なら何発、レーザーなら何発で倒せるってそれぞれ設定してある。これがなんらかのミスで、間違ったまま入力されたりしたら、ボスなのに通常弾一発で倒されたり、ザコが無敵状態になったりする」
「あらら・・・」
神崎は自分の食べ終わったラーメンのカップを、台所の流しに持っていきスープを捨てた。眞山も自分のカップを持って行こうとしたが、神崎が座っといていいよと言って持って行ってくれた。
スープを捨て終えると、またゲームに囲まれた椅子に座り、先程途中だったゲームの画面を指差した。

「で、こいつがそのテストプレイ中。全9ステージあるうちの7まで終わっている」
ゲーム画面には、そのステージのボスなのか、少し大きめの敵が上下に動きながら無数の弾を発射している。しかし前と同じく、静止した戦闘機には当たらない。
「こいつがステージ7のボスだけど、こいつの動きやライフをテストするには、ここまで辿り着かないといけない」
「まあ、そうだろうな」
「いきなりこのボスの場面から始められないこともないけど、全体的なチェックをするには、通しでやらないと抜けがある。全うにプレイして簡単に通せると思うか?」
「う~ん、難易度高くなると厳しいかもな」
「だろ?途中でやられたらどうなる?」
「え~っと、最初からやり直す・・・」
「そう!するとどうなる?」
「え?どう・・・なる?」
「・・・イライラする」
眞山は思わず吹き出した。
「笑いごとじゃないって。テストしたくても辿り着くまでが大変なんだから。だからこれだって、簡単に通せるように弾が当たらない場所を作って・・・」
眞山は笑いながら賛同して頷いた。自分の作ったゲームの難易度にイライラしている神崎を想像すると、おかしくて笑いが止まらなかった。
神崎のゲームの知識、テクニックからして、何事も冷静沈着に見えるが、たまにこういった人間味のある一面を見せる。
それが神崎の魅力であり、そうでないとかしこまって仲良くなれなかったかもしれない。それに、神崎に対する劣等感から笑ってしまったことも、自分の中で再確認した。

「だからデバックが必要なんだ。とにかく、裏技の原点は二つ。単なるミスから生まれたものと、テストプレイのイライラ解消の為に故意に作られたってのが俺の考え。以上!」
眞山は神崎の持論に微塵の疑いもなかった。自分の知る限り昔のゲームを思い返してみても、全てその二つの理由が当てはまる。
テストプレイの為に作られた技が、何故か外部に漏れ、裏技として広まった。
まだテレビゲームが出始めたころ、現代ほどの口止めや、裏技だけのデータ修正は困難だったのではと感じた。

そして、世に出ているゲームの中で、まだ表に出ていない、製作者しか知らない裏技が、数多く眠っているのでは・・・とも考えた。

裏技の原点は理解出来たが、まだ裏ダンジョンや裏ステージについて、神崎の考えを聞いてない。
「じゃあさ、裏ダンジョンなんかはどうして出来たの?これは流石に製作者側の為じゃないよね?」
神崎は眞山の質問に戸惑いはしなかった。が、少し悲しいというか、不満そうに口を尖らせて応えた。
「その理由、というか思考は、現代のアプリゲームにも繋がっていると思う」


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