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キミは私の好きな本をいっしょう読まない。


たぶん、キミは私の好きな本をいっしょう読まない。

だから私が「ふたりで100万1回目の人生を歩もうね」って言っても何言ってんだコイツって顔をするだろうし、音楽の趣味だって合わないから、缶ビールを片手に「クロノスタシスって知ってる?」って言い合いながらBPM83に合わせて夜の散歩をすることもないだろう。

 私だってキミが人生のバイブルだって勧める『 G戦場ヘヴンズドア』を読まないし、日本橋ヨヲコの青臭いセリフを知ることはない。いつもベットに寝そべりながら夢中になってるゲームも、一生やることはないんだと思う。

   お酒のツマミでも買いに行こうよって誘ってマルエツ。平日の深夜2時。

 すかすかになった野菜の棚、つくねと砂肝しか残ってない肉の棚。レジの中には暇そうに時計をチラ見してる中国人っぽい男の子。お客さんは私たちと青白い顔をしたスーツの男がひとりだけ。あいつはきっと、どっかの店のボーイに違いない。スーツも水商売くさいし。

世の中からちょっとズレたこの時間に、取り残された人間たちがこんな所に集まって、だらんとしてダルい。「どうして真夜中のスーパーは、これだけでこんなに楽しいんだろうね」って私が言うと「たしかに 笑」だって。今日、初めて気があった。

 何か特別食べたいわけでもなくて、意味もなく店内をウロウロしていたら「そういえば、限界がちかいバナナあったよね」って、キミが唐突に聞く。

そういえば、あったあった、バナナ。私はぶっちゃけ捨てるつもりでいたけど。「せめて切って冷凍しようよ、食べれるよ」なんて苦い顔をされて。わあ、まだあのバナナに期待してんだ、とか思っちゃう。バナナに期待っていうのも変な話だけど。

昔からそうゆうところあるよね。調味料でも野菜でも家電でも人間でも、切り捨てないでギリギリまで期待を持っている感じ(?)こういう人だから、私を選んだのかもしれないけど。

 結局、店内をグルグルして買ったのは茄子の煮びたしとスルメイカだった。本当は、ポテトサラダが食べたかった。けどいいや。帰ろ帰ろ。たぶん、部屋について、ゆっくりこれを食べているうちに朝になる。

 きっと、この先も、私がポテトサラダを食べたがったり、私がギリギリの野菜を勝手に捨てるのをキミは理解できないだろうと思う。キミを好きになった時、初めて自分の過去を呪ったこの気持ちも、一生わかるもんか。

私だって限界のバナナを取っておくキミの気持ち、ぜんぜんわかんないしね。
 
けど、いいや、今のところ、深夜のスーパーが好きなのと、本の帯を捨てないところだけは同じだから。 

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