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物語を持っている人

高校2年生の時の担任の先生は、北海道で暮らしていたことがあり、よくその時の話をしていた。
私は、そういう話を聴くのが好きで、今いる場所ではない所に行くのも良いな…と思い、高校卒業後、神奈川から京都に来た。

14年前に友人と一緒に起業した時に、その先生が教えてくれた言葉。
「若い時旅を致さねば、老いての物語がない」

色々な人が色々な言い回しをしている言葉のようだけれど、先生が教えてくれたのは「磁石」という狂言の一節だとか。
旅とは、冒険であり、決断であり、非日常。
妥協の道筋だけをたどる者には見えないもの。

私は現在、京都で珠数職人をやっている。
商店街の片隅で、お珠数やお線香など細々した仏具類を売りながら、全国各地のお寺に行って色々な勉強をさせてもらっている。



7年くらい前の話

配送業者さんの集荷時間に間に合わなかった為、持込をしようとした。
営業所の10mくらい手前で土砂降りに遭い、近くの家の軒先に避難。
営業所は目の前にあるのに、荷物が濡れては困るので動けずにいた。

すると、向かいのマンションから人が出てきて、
「返さなくていいから、使って」と傘を渡された。
「えっ!?でも…」と私がビックリしているうちに、その人は走り去ってしまった。
突然の出来事だったので、慌てて「ありがとうございます!」と、その人がマンションに入る前に何とかお礼だけは言えた。

それ以来、
大きな雨音が聞こえると、とりあえず外を覗くようになった。

雨に降られて困っている人がいたら、私も傘を渡せる人になりたい。

でも、
会社は商店街にある。
商店街にはアーケードがある。
アーケードを歩けばスーパーもコンビニも喫茶店もある。
いない、
雨に降られて困っている人。


お客様は様々。

商店街に会社があるものだから、来てくれるお客さんは、お子様からお歳を召した方まで色々な人が来てくれる。
お坊さんが来てくれることもあれば、外国人観光客が5~6人で来て、私が慌てふためいていることも日常茶飯事。


3日くらい前に、
小柄で細身のご年配の方が、香炉灰を買いに来てくれた。
少し足が悪いようだけれど、歩いて買い物に来ているし姿勢も良い。
言葉が出てこないこともあるけれど、喋り方はハッキリしている。
私の母も足が痛いとよく言っているし、言葉が出ないこともよくある。
私の母より5・6歳上くらいかな…と思いながら接客していた。

すると、突然、大きな雨音。
雲も厚く暗いので、すぐに止みそうにない。
お客さんを見ると傘を持っていない様子。
ちょっと待ってくださいと言って、奥に傘を取りに行く。
「こんなので申し訳ないですけど…返してもらわなくて良いので」と言ってビニール傘を渡す。

7年越しに念願が叶った。

そして今日、傘を渡したお客さんが、
また店を覗きに来てくれた、傘を返しに。
しばしの間、香炭の使い方を説明した。


「昔、ヒマラヤにいたことがあって」

帰り際、お客さんに言われて、一瞬、何のことか分からなかった。
ヒマラヤ?って…あのヒマラヤ?山のこと?
「その時のことが書いてあるのだけど…」と一冊の本を取り出した。
マジか…本当に、あのヒマラヤのことだ。

なんで帰り際に言うかな~と心の中で叫んでいた。
香炭の話するより、ヒマラヤの話を聴きたかった。

すると、本を渡された。
「えっ⁉ いただいて良いのですか?」
自分から言うなっ‼ と思いつつも、かなり本気で嬉しい。
だって、周りにいる?ヒマラヤに登ったことのある人。
山登りに興味なくても、一瞬でそそられた。

いや、この本を本屋さんで見つけていたら手にはしていなかったと思う。
けれど目の前にいる、細身で小柄なお年寄りがヒマラヤに登っていたのかと思うと…この先、私が(ほとんどの人が)経験することのない物語を持っている人だ。

明日は、読書の日になりそう。



サボりがちな

本日の珠数つなぎ


御修理 赤苔瑪瑙7㎜ 通しのみ 

様々な成分が混ざることで、独特の模様が出る。
天然石らしくて良い。
「珠が不足しているので、赤瑪瑙を足してほしい」とのご要望。
男女ともに人気の赤瑪瑙。
けれど、ご葬儀などに持って行くのに、真っ赤では持ちにくいという方に、赤苔瑪瑙はオススメ。
模様の出方によって、もっと落ち着いた雰囲気のものもあるので、自分好みを見つけるのも楽しい。

それと、
もし珠数が切れて珠を紛失された場合でも、
珠を足したり、ブレスレットにつくりかえたりできるので、仏具屋さんに相談してみてほしい。

切れたし縁起が悪そうだから処分しようか…と相談に来られる方がいる。
こういう仕事をしていると、
「ずっと使っていたのに、今回、直したばかりでスグに切れたんです」
という話も聞くので、何か見えない力があるのかもしれないとも思う。
でもそういう時は、切れたから縁起が悪いのではなく、
悪縁を断ち切ったから切れたのだと。
身代わりになってくれたのだとしたら、直して大切にした方が良いと思う。
直して使えるなら、私は直した方が良いと思う派。




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