Life is Fishing (第三章 往路⑥)

車は国道246号のいすみ市区役所交差点を過ぎて、大原へ向かう。暫く行くと大原漁港へ真っ直ぐ一本になるが、まだ海は見えなかった。目的地までの距離は残り1キロを切っていた。
峠道でもなかったな。交差点の信号待ちをしていると、ウッシーが声を上げた。
「今村さん!あれ、海じゃないですか?」
ウッシーが指差した正面真っ直ぐ先を見ると、港の構築物の向こうにうっすらと海が顔を出していた。
「本当だ、海だね!目的地ギリギリでやっと外房の海を拝めたよ。」
海が姿を見せる状況は、必ずしもドラマチックではないようだ。でも、待ち焦がれた海であることに変わりはない。
信号が代わって車を発進させる。大原漁港への道の突き当たりは、関係者以外進入禁止となっていた。カーナビは右折を指示していたため、ハンドルを右に切る。すると左前方に漁港の建物が見えた。朝市などのための施設だろうか。
カーナビは目的地周辺だと言って、案内を終了した。
「ここですかね、誰も居なさそうですが。」
ウッシーが建物を覗き込むようにして言った。
「昼の漁港なんてこんなもんじゃないかな。とりあえず降りてみようよ。」
僕は車を道路脇に寄せて停車させた。二人同時にシートベルトを外し、車を降りる。外は晴れていた。夏の日差しが皮膚を差すような刺激を受ける。風は少し強めに吹いていた。
「今村さん、運転お疲れ様でした。」
「うん、お疲れー。ノンストップで来たからちょっと疲れたな。」
硬くなった身体を伸ばすように、僕は腕のストレッチをしながら応えた。
車を降りて近づいてみても、漁港の建物内には人影は無かった。
「新鮮な魚介類の水揚げなんていうのは、早朝じゃなきゃお目にかかれないのかな?」
「そうですね、それどころか人気すら無いですもんね。」
ウッシーが不安そうな表情で言った。その気持ちは何となく分かる。漁港関係者でもない僕らが、開けっ広げとは言え無人の建物内をウロウロするのに後ろめたさを感じるのだろう。
「海の方へ行ってみようよ。」
「はい。」
僕らは建物を通り抜けて海の方へ歩いて行った。漁港内には漁船はなく、何人かの釣り人が釣り糸を垂らしている。ストレッチも兼ねて漁港内を回ってみたけど、特に目を引くようなものはなかった。
「まだ随分時間余っているね、どうしようか?」
「今村さんが運転大丈夫なら、車で他の場所回ってみませんか?」
「良いね、その前にちょっとトイレ行かせて。」
僕らはトイレを済ませてから、次の目的地を決めるために車に戻った。

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