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何度でも読みたいnoteの引き出し

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何度でも読みたいなぁ・・・と思ったnote、トラックバックのように大々的に紹介はしないけれど、誰かにもおすすめしたいなぁ・・・と思ったnoteを、そっとしまう場所です。ときどき、…
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2020年12月の記事一覧

28歳

28歳。新卒で入った都内のセールスプロモーションの会社を辞めた。退勤は毎日23時を廻る。時折会社に4日間ほど泊まり込む。そんな勤務は少しずつ身体と頭にダメージを与えた。辞めると定収入が途絶えるのでバイトでつなぐ。学生の時にもやっていたテニスインストラクター。それだけでは厳しい。大学同期のKが家業のビルメンテナンス会社に入っていた。声を掛けてくれた。うちでバイトしないか? 新大久保にある小さな会社。少人数で現場を廻る。社名にビルメンテナンスとあるが、要は何でも屋だ。公共施設や

笑顔で。

拝啓 はじめまして。 先日は、手紙をくれてありがとう。 ゆったりと公園で本を読んでいるときに、桜の花びらが本の上にさらりと落ちてきて、ふと頬がほころぶような、そんな手紙でした。 そんな手紙を書いたあなたの事を、もっと知りたくて、たくさんあなたの書いた事を読みました。そして、あなたの書いたものについて私は書きたいって思っているのだけど、あなたのたくさんの過去について私がたくさん話しても、手紙じゃなくてただの映画感想みたいになっちゃうな、って思いました。そしてね、わたしはあなた

「おねがい。そっち行かせて?」 はやる気持ちで光る画面に文字を打ち込む。足元には娘がまとわりついている。 既読になるのを待てずに家を出た。 日曜日の朝だった。 前日に夫から「別居したい」と言い渡されていた。 もともと都会人の夫は、この地域のしがらみや慣れない農業にすっかり生気をなくしてしまった。都市部から私の実家がある地方へ移り住んでから5年が経過していた。その間に夫にはダメージが蓄積されていたようだ。この地域から離れてしばらく暮らすのは、夫の頭の中で決定事項のようだっ

そんなことも今まで気がつかなかったのか、わたしは。

子供が3人いるからベテラン母。そんなことはない。 母親業が長いから育児上手。そんなこともない。 産休と育休を取得し、3人の子供たちが0歳児からずっと働いている。 1日の1/3を仕事で費やすわけだから、いい悪いは別として、子供たちと接する時間は物理的に少ない。でもその分、接する時間の密度を濃くしようと努めてきた。それが、フルタイムワーママができる精一杯のことだと思ったから。 それでも、いつだって罪悪感のようなものは抱えているし、ふとしたときに負い目を感じることもある。

一陣の風

お父さん、 この丘の上のリンゴの木、私が生まれたときにお父さんが植えてくれたんだっておじいちゃんに聞いた。 お父さんがいなくなってしまった後もこの木はずっとここにここにいて、葉を茂らせて、花を咲かせて、実をつけて、季節の恵みを与えてくれる。 大きなカゴいっぱいに摘み取ってもまだまだ沢山枝に実が残っている。 たわわに実った赤い実は青い空に映え、甘い香りを風にのせてその存在を知らせてくれる。 急に向こう側に旅に出てしまったお父さんを誰も引き留めることはできませんでした。

高架下

あまりの重さに気怠い軌道で向かってきたバッグを、来ると分かっていながら受け止めきれずに左へよろめいた。 男ひとり分の体をよろつかせておいて尚、勢いを持て余したワインレッドのそれは、ぐわんと旋回して今度は女の体をよろつかせた。 でかいバッグの女は好きじゃない。 荷物も重けりゃ全てが重い。 乾いた嘲笑を呑み込んで、めんどくさ、も呑み込んで、 『悪い…』と一言、アスファルトの上に置いた。革靴とハイヒールのちょうど間の辺り。 仕方ない。 物事には流れというものがあって、 別れ

同じ朝

朝。 「あなたの記事が話題です」という通知が来る。 現在「ことば展覧会」という企画をしているので、誰かがその企画の作品を投稿した場合に、先程の「あなたの記事が話題です」という通知が来る。 よしっ!新しい作品っ! と思って読みに行く。 書き手は水野うたさん。 読んでみると、僕が書いた「返却期限」という作品のnote感想文が書かれている。 僕のこと書いてくれたの?!!と、驚愕。驚愕の度合いで言えば、通勤の満員電車に乗っているのに、気づけば下半身まだパジャマのままでし

僕の好きな人〜ラブレター

僕の好きな人は白い旗のような人。 真っ青な大空にはためくその旗は 力強くて潔くて そして眩しいくらいに光っている。 最初彼女に出会った時に、すぐにこのイメージが頭に浮かんだ。 小さくて華奢な身体に一眼レフのカメラを持って 高校球児たちの写真を撮る姿はとても美しく、 他の保護者の方々が飲み物を飲んだりベンチで談笑している中、 ひとり、高校球児たちの姿を追う。彼らの笑顔や必死な姿を同じくらいの温度で感じながら、何百枚もの写真に残す。そして一緒に泣いたり笑ったりする。 共通の友