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これまでも、これからも『ありがとう』を―― μ’s「A song for You!You?You!!」

μ’sが活動休止をしたのが2016年4月1日のことでした。
あれから長いようで短い時間が過ぎ、ラブライブ!シリーズもまもなくシリーズ誕生から10周年に突入しようとしているわけですが、このタイミングで見たくなるのが今年発売されたシングル「A song for You!You?You!!」ですよ。
もう最高でしたね。
μ’sの新作映像!という強さしかなかったです。

久しぶりだからこその「変わらなさ」が愛おしい

今回のMVのテーマの一つには「変わらなさ」があると思います。

μ’sの活動休止以降、「ラブライブ!」というプロジェクト自体が広がっているし、そこで用いられる技術も凄まじい速度で進化している。
『ラブライブ!サンシャイン!!』の1stシングルでメンバーを跳び箱のように超えていくカットを見て「CG的には難しかった接触の表現もついにここまで出来るようになったし、ラブライブ!でこれが出来るようになったんだなぁ」と感慨深く感じたこともありましたが、今ではそのレベルの事はそこまで大きな挑戦ではなくなっている。
カメラワークについてもそうですね。
Aqoursや虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のMVを見れば分かりますが、現実で可能なカメラワークと虚実的なカメラワークを使い分けることで「アニメだからこそ出来る表現」を作り上げています。
今のラブライブ!シリーズはそこが面白いと思っているのですが、今回のMVでは「μ’s活動休止前後」のレベルで留めることで活動休止からこのMVまでの年月を感じさせない「変わらなさ」を生み出している。そしてその変わらなさが「彼女たちは今も変わらずに走り続けている」という意味を生んでいる、と思うのです。

この辺は冒頭の日常風景が強調しているところではありますね。
本当に何も変わらない。それこそラブライブ!というシリーズのどこに挿入されてもおかしくないような「どこかで見たようなやりとり」が並べられている。宿題をやってないのが高坂穂乃果と矢澤にこと星空凛なのもらしくて良い。
こうした「変わらなさ」が本当に心地良い。
「このMVを見ている人達の傍で、μ’sは一緒に走り続けていた」ということを証明してくれているかのような表現でしたね。

(念の為に述べておくと、「新しいことが出来なかった」というわけではないと思いますね。京極尚彦監督は『KING OF PRISM』でプリズムショー演出(ライブ演出)を担当してますが、毎回新しいことをやっているので。意図的と見るのが自然だと思います)

久しぶりだから気付ける「変えたこと」

その一方で変えたところもありますね。
例えばソロパートのバストアップカットはいつもよりも長尺で一人一人の「ありがとう」が伝わってくるようになっているし、CGモデル自体も今回のために新規で制作したようなので、『ラブライブ!サンシャイン!!』などと同じぐらいのものになっている(劇場版だってもう5年前ですからね)。
表現としては一番のサビ最後でカメラに向かって手を伸ばす部分などは「CGでやるんだ」という驚かされました。

こうした「変えたところ」の極地が間奏部分でしょうか。
『ラブライブ!』のキービジュアルを彷彿とさせるような音ノ木坂学院前で九人のシルエットから始まって、「No Brands girl」のフレームで切り取る表現から、歴代シングル曲のステージを巡っていく。
この辺の総括するような表現って『ラブライブ!』のナンバリングシングルではやってなかったと思うのですが、今回は「五年ぶりの新作」であり「ラブライブ!のこれからの九年間の始まり」を象徴するためなのか、あえて用いられている。
そこから今回のステージに戻ってくるわけですが、あえて歴代シングルのステージを巡ったことによる集大成感が戻ってきた時に「今に繋がっている」という感覚を生み出していて素晴らしいですね。これ、シリーズ共通のテーマを想起させる凄い演出ですよ!

ラストカットが音ノ木坂学院の校門前で練習している様子を音だけで表現する辺りはもう侘び寂びの世界。「今も変わらずに練習している」ということが分かる表現で、見終わった後は「これからもμ’sと一緒」という気持ちになりますね。

最後に

ラブライブ!フェスも終わり、ラブライブ!シリーズは次の九年間へと向かって舵を取り、走り始めましたが、その「次の九年間」と「これまでの九年間」の狭間にこういう作品がリリースされたこと、それを見ることが出来たことは本当に幸せなことだと思います。
この映像もまた、活動休止以降も忘れることなく共に歩んできた、スタッフとファンとキャストによる「皆で叶える物語」だと言えるんじゃないでしょうか。
新シリーズに虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のアニメ化もありますし、次の九年目に今回のような物語が紡がれると良いと思います。

ところで。
今回のMVは、劇場版以降で新作映像が作られなかったμ’sにとって、ある種の「宿題」だったと思うのですが、高坂穂乃果だけが宿題を終えていないのは意味合いとしては「そういうこと」でいいんでしょうか。
えっ、期待しても、良いんですか?

プリズムの煌めきを広めるためによろしくお願いします。