最推アニメだった『かげきしょうじょ!!』を見終えて

7月から開始した『かげきしょうじょ!!』も9月末で千秋楽を迎えました。
一話を見た時に感じた「あの原作を30分×13話のアニメにしてくれている!」という感動と、「アニメで見たかったシーンがこんなに面白くなるなんて」という歓喜を抱いたまま、千秋楽を終える事が出来たことが一ファンとしては何より嬉しく思います。
毎週のように見てきたエンディングのラストカットが、本作の最後を飾る「101期生募集のポスター撮影だと判明する」という捻りの効かせ方がお洒落だった点も素晴らしかったですね。原作ファンは分かってることですが、「まさかアニメの最後をこれにするとは……」と驚かされました。

『かげきしょうじょ!!』のアニメ化について、良かった点を上げ始めるときりがないのですが、「さらさ達100期生の物語に絞り切った」という点をまずは評価しておきたいです。
原作は100期生だけでなく、中山リサや野島聖といった99期生の先輩達や、暁也達歌舞伎役者なども物語に加わり、群像劇のような形で「役者」というものを描き出す作品なのですが、アニメ化に当たって100期生達の物語に絞り込む事で「役者志望者達の物語」となり「役を演じる」という具体的な部分に立脚した物語になっていたように思います。
またアニメになって各キャラクター達に声優がキャスティングされ、台詞が音声になったことで「役を演じる役者を声優が演じる」という多重構造と化し、キャラクターの言葉に血が通うのとともに「演じる役者そのものの凄さ」を感じさせるものになっていた点も今回のアニメ化の良かった点の一つでしょう。
とりわけ終盤のオーディションの辺りは各キャラクターを演じる役者の「キャラクターの理解度の深さ」が現れており、「このキャラクターならここまで踏み込むはずだ」と踏み込んでくる演技は聞いていて/見ていて惚れ惚れするほど素晴らしかった。
佐々木李子演じる山田彩子については、アニメでも二回ほど歌う機会があったのですが、歌唱力と表現力で有無を言わさないほど美しい「山田彩子の歌」で、作中設定の表現として文句のつけようがなかったです。

そんな『かげきしょうじょ!!』で特に良かった物の一つが「薫の夏」でしょう。
原作では外伝として描かれたもので、星野薫が入学する直前の夏を描いたエピソードだったのですが、原作でも狂おしいほどの青春と、美しくも苦いひと夏の邂逅に読み終わった直後は心をかき乱されて「何も分からない」になっていたのですが、アニメになるとバス停でしか会わない二人のやりとりが追加されているのでより一層「普通の女子高生に憧れた」という部分が苦さを増していましたね。
泣きながら浜辺を走る星野薫に愛おしさと麗しさを感じ、原作通りのモノローグで描かれる「あり得たかも知れない可能性」に発狂しそうになりました。
あれは異常に出来がよい短編映画です。あれだけ見ても成立するぐらい、美しいエピソードでした。大地葉と畠中祐には感謝です。

気になった点としては、やはり国広先生のエピソードがカットされた点は気になりました。あのエピソードをやると「100期生の話」になりきらず、「紅華の歴史を担うもの」になってしまうのでカットそのものは妥当なのですが、やっぱり「どんなことがあっても、人が夢を望み続ける限り紅華は終わらない」は見たかった。あれは見ておきたいものでした。
また渡辺さらさの背景についても少し弱くなっていたかなと思います。
原作だと二巻まるまる使ったエピソードを一話にまとめていたりしたので、「思い描いていた夢が自分の力ではどうしようもない理由で断たれてしまう」というさらさの絶望が弱くなってしまった。「絶対に助六になれないさらさ」と「助六になれないかもしれない暁也」は違うんだという悲しみはもう少し描いてほしかった。
またやはり文化祭直前で終わってしまったのも勿体なかった。
「役者は親の死に目に会えない」という言葉について考える話は、役者の覚悟の話でもあるので見たかった。贅沢な悩みであることは重々承知なのですが、そこまでやってくれたら最高でした。

この作品、はっきり言って贅沢な作品だったと思います。
宝塚歌劇団、並びに宝塚音楽学校を舞台にした作品なので、登場するキャラクター達もそれ相応の格があるわけですが、紅華歌劇団冬組トップスタァとなった里美星に宝塚歌劇団に在籍していた七海ひろき、「薫の夏」で登場した星野薫の祖母や母親(どちらも紅華出身設定)にも宝塚出身の前田真里と森なな子を連れてきている。
音楽は斉藤恒芳ですし、「ここまでやってもらっていいのか?」と思うほど豪華。正直期待してたものを遥かに超えていたので、本来なら文句をつけることすらおこがましい。
ただそれでも言いたいことがある。
贅沢だと理解していても、「見たかった」という言葉が口から出ることを止めることが出来なかった。
そうなってしまうのはやっぱり「素晴らしいアニメ化だったから」でしょう。
米田和弘監督、最高のアニメ化をありがとうございました。
メインスタッフの皆様、素晴らしい『かげきしょうじょ!!』をありがとうございました。


プリズムの煌めきを広めるためによろしくお願いします。