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水道橋より徒歩n分


 明後日の日曜日、野球観戦に行く予定がある。数ヶ月前から突如カレンダーアプリに現れ出したその文字列は1人の友人によって仕込まれたものであり、私の生活にささやかな変革をもたらした。

Twitterのトレンドに野球関連の文字があると友人の好きな球団の動向が気になるし、調子が良さそうでれば(ああ、多分今喜んでいるんだろうな)と思うし、逆であれば公式アプリ片手に若干お怒りな友人の見慣れた様子が思い浮かぶ。こういう一幕は日々の中で不意に襲われる孤独感を大いに、自然に払拭してくれるので助かっている。
また、夕食を摂りながら見るコンテンツの中に野球中継が加わった。それまで声の塊としか認識できなかった選手ごとの応援歌の歌詞が聞き取れるようになって、ホームランくらいしか分からなかった試合中の見どころもなんとなく理解できるようになった。
同じ試合を見ながら友人とLINEをすることもある。
ルールもろくに把握していない私の、「今の〇〇さんえらい?」に毎回きちんと「えらい」と返してくれる彼女は寛大な人だ。
遊びの途中で行き先の案が尽きると時々連行される東京ドームへの経路はもう覚えたし、ドーム入り口の回転扉が生じさせる凄まじい風圧も体感した。

 ただ、そんなふうに野球の楽しみ方を教え込まれていながら私は友人の好きな球団以外をろくに知らない。その贔屓の球団についてですら、選手の名前をぽつぽつと覚えつつある以外は特に何もわからない。監督が誰だとか、誰が投打のどちらに強いだとかその辺り。前述の通りルールも複雑で中々覚えられない。1試合に出場する選手の人数すら曖昧だ。9人だっけ?11人?それはサッカーだったか。
でも、その状態でいいと思っている。
検索エンジンに適宜ワードを放り込めばいつでも調べられることなのだから調べて覚えて仕舞えばいいのはわかっているが、あえてそれをするのも何か違う。
無理に知識を叩き込んでまで試合の様子を理解するより、隣の友人が楽しそうに解説するのを聞きながら会場の熱気に身を預ける方が私は好きだ。
もちろん友人が望むなら学生御用達のオレンジのペンと赤シートをもって己が脳に必要な情報を詰め込んだっていい。だが別段そういった要求は受けていないので実行の予定は無い。

 しかし先程クローゼットを覗いたところ、おおよそ野球観戦には向かないであろう華奢な素材のロングスカートのみが並んでいたのでここに関しては速やかな改善を図るつもりだ。買い物には付き合ってもらおう。

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