「大規模言語モデルは事実データベースではなく、『推論エンジン(reasoning engine)』として捉えるべきだ」
OpenAIのCEOであるサム・アルトマンの言葉です。
事実データベースとは情報やデータを保存しているだけのものですが、「推論エンジン」は情報を活用して新しいアイディアや結論を導き出す能力を持っています。つまり、ChatGPTのような大規模言語モデルはただ情報を記憶しているだけではなく、それらの情報を使って論理的に考えたり、推論したりすることができるのです。
ですので、ChatGPTを情報を引き出すために用いるのはもったいないということです(間違ったことを言いますし)。推論エンジンとして活用すれば、より論理的に考えたり文章を作成したりする手助けしてくれます。
そこで、「論文のアブストラクトを書く」というタスクを例に、論理的な文章を書くパートナーとしてのChatGPTの使い方を紹介したいと思います。
論文のアブストラクトは、論文の内容を短くまとめた文章で、本文を読むかどうかを判断する基準となります。アブストラクトの書き方については、次のブログにとても分かりやすく解説されています。
たとえば、ブログで紹介されている『桃太郎』の物語を例にした論文風のアブストラクトは次のようになります。
こうしたアブストラクトがどんなテーマに対しても書けるようになるための4つのステップが紹介されています。
目的・方法・結果の三要素を合理的に組み合わせて核を作る
目的達成の必要性と結果がもたらす発展的価値を書いて三要素の価値を高める
適切な接続詞や役割紹介語を置いた後に推敲する
最終チェック
ですが、実はこれらのステップを実行するためには論理的思考や書いた文章の客観的評価ができるメタ認知能力が必要です。ChatGPTを活用することで、これらの能力をサポートしてもらえます。
『桃太郎』の例を用いて、各ステップをChatGPTの力を借りながら作成してみましょう。
まず、ステップ1では、「何のために」「何をして」「何を得たのか」という、「目的」「方法」「結果」の三要素を考えましょう。『桃太郎』の物語では例えば次のとおりです。
これら要素を用いて、次のような文章が作成できます。
ですが、この文章では、宝物を取り戻す目的の達成方法として、キビ団子がなぜ有効なのか、それがどのように鬼退治につながるかが分かりません。そこで、これら三要素の関係が分かるように文章を修正する必要があります。
ChatGPTに修正してもらいましょう。
結果です。
ChatGPTで修正された文章では、目的・方法・結果の関係がより明確になりました。
ブログで紹介されている次のお手本と比較しても、この文章はそれほど遜色ありません。
では、ステップ2に進みましょう。ステップ2では、目的の背景説明と結果の意義を追加しましょう。これによって、価値をさらにアピールすることができます。「なぜその目的を達成したいと考えたのか」という背景と、「得られた結果によって何が言えるようになったのか」、もしくは「今後どうよくなっていくのか」を示すことが重要です。
これらの情報をChatGPTに追加してもらうためには、背景と結果の価値に関する情報を提供する方がベターです。ですが、ここではChatGPTは『桃太郎』の物語を良く知っていると過程して、「背景」と「結果の意義」についても推論させてみます。
結果です。
いかがでしょうか。背景に関しては、宝物が奪われた結果具体的にどのように村の平和が脅かされたのか、という点が気になりますが、まずますです。
次の文章が、ブログで紹介されている手本です。お手本の文章の方がより背景の説明と結果の意義の関係性がクリアです。
曖昧な点をより明確に記述するようにChatGPTに指示を加えるというのも一案ですが、ここでは次のステップ3に進みましょう。
ステップ3では、適切な接続詞や役割紹介語を用いて推敲しましょう。これにより、各文の役割が明確になります。適切な接続詞や各文が果たす役割を紹介する言葉をChatGPTに追加してもらいます。
結果です。
少し文章が不自然ですね。
ブログで紹介されているお手本は、より読みやすく、理解しやすい敏捷になっています。
そこで最後に、ステップ4で最終チェックを行いましょう。不自然な言い回しや、文と文とのつながりが悪い箇所をChatGPTに修正してもらいます。s
結果です。
いかがでしょうか。各ステップに従ってChatGPTに指示することで、論文風のアブストラクトが作成できました。「目的として決意する」や「方法として」といった不自然な表現が残っており、改善の余地がありますが、全体的には論理的な文章になっています。
アブストラクトを作成するというタスクから感じることは、指示を明確にするプロセス自体が、論理的な思考を促すということです。さらに、ChatGPTとの対話で生成された文章は自分で書いたものではないため、客観的に評価することができます。この客観的な評価が可能な点が、ChatGPTを活用する大きな利点となります。この客観的な評価は、メタ認知能力の向上にもつながります。
メタ認知能力は、自分自身の思考や学習プロセスを理解し、適切に評価するために重要です。ですが、自分の書いた文章を客観的に評価するのは難しいことです。他人の書いた文章であれば、客観的に評価できますが、自分が書いた文章だとどうしても評価が甘くなりがちです。ChatGPTは文章作成のプロセスを助けるだけでなく、自己評価やメタ認知能力の向上にも役立ちます。
ということで、ChatGPTを「データベース」として情報を引き出すために使うのはもったいないことです。それだけでなく、推論エンジンとして活用することで、より論理的に考える助けとなり、文章作成においてもパートナーとして働いてくれます。
今回は、アブストラクトを書く際の論理的な文章作成におけるChatGPTの使い方を紹介しました。ChatGPTとの対話を通じて論理的な思考を促し、客観的な視点を持てることが、ChatGPTを使う大きな魅力だと感じています。こうした方法をもっと活用することで、より質の高い文章が作成できるのではないかと思っています。
ぜひ、みなさまも試してみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ではまた。ciao