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論理的な文章を書くパートナーとしてのChatGPTの使い方

「大規模言語モデルは事実データベースではなく、『推論エンジン(reasoning engine)』として捉えるべきだ」

OpenAIのCEOであるサム・アルトマンの言葉です。

“The right way to think of the models that we create is a reasoning engine, not a fact database. They can also act as a fact database, but that’s not really what’s special about them- what we want them to do is something closer to the ability to reason, not to memorize.” — Sam Altman

事実データベースとは情報やデータを保存しているだけのものですが、「推論エンジン」は情報を活用して新しいアイディアや結論を導き出す能力を持っています。つまり、ChatGPTのような大規模言語モデルはただ情報を記憶しているだけではなく、それらの情報を使って論理的に考えたり、推論したりすることができるのです。

ですので、ChatGPTを情報を引き出すために用いるのはもったいないということです(間違ったことを言いますし)。推論エンジンとして活用すれば、より論理的に考えたり文章を作成したりする手助けしてくれます。

そこで、「論文のアブストラクトを書く」というタスクを例に、論理的な文章を書くパートナーとしてのChatGPTの使い方を紹介したいと思います。

論文のアブストラクトは、論文の内容を短くまとめた文章で、本文を読むかどうかを判断する基準となります。アブストラクトの書き方については、次のブログにとても分かりやすく解説されています。

たとえば、ブログで紹介されている『桃太郎』の物語を例にした論文風のアブストラクトは次のようになります。

幾度もの鬼の襲来で村は疲弊し,壊滅の危機が迫っていることが問題となっている.そこで本研究では,鬼に奪われた宝物を取り戻すことを目的とし,その達成のために必要な味方を集めるためのキビ団子を用意した.その結果,得られた味方と協力して鬼を退治して宝物を取り戻した.この成果は,これを破損した村の主要設備の修復に充てることで当面は壊滅の危機を脱することが可能になるという点で重要である.

http://www.ams.eng.osaka-u.ac.jp/user/ishihara/?p=626 より抜粋

こうしたアブストラクトがどんなテーマに対しても書けるようになるための4つのステップが紹介されています。

  1. 目的・方法・結果の三要素を合理的に組み合わせて核を作る

  2. 目的達成の必要性と結果がもたらす発展的価値を書いて三要素の価値を高める

  3. 適切な接続詞や役割紹介語を置いた後に推敲する

  4. 最終チェック

ですが、実はこれらのステップを実行するためには論理的思考や書いた文章の客観的評価ができるメタ認知能力が必要です。ChatGPTを活用することで、これらの能力をサポートしてもらえます。

『桃太郎』の例を用いて、各ステップをChatGPTの力を借りながら作成してみましょう。

まず、ステップ1では、「何のために」「何をして」「何を得たのか」という、「目的」「方法」「結果」の三要素を考えましょう。『桃太郎』の物語では例えば次のとおりです。

目的:宝物を取り戻すため
方法:キビ団子を用意する
結果:鬼を退治した

http://www.ams.eng.osaka-u.ac.jp/user/ishihara/?p=626より抜粋

これら要素を用いて、次のような文章が作成できます。

宝物を取り戻すために(目的)、キビ団子を用意し(方法)、鬼を退治した(結果)。

http://www.ams.eng.osaka-u.ac.jp/user/ishihara/?p=626より抜粋

ですが、この文章では、宝物を取り戻す目的の達成方法として、キビ団子がなぜ有効なのか、それがどのように鬼退治につながるかが分かりません。そこで、これら三要素の関係が分かるように文章を修正する必要があります。

ChatGPTに修正してもらいましょう。

「桃太郎」という物語の論文風アブストラクトを作成します。
目的、方法、結果の三要素は次の通りです。
この文章の合理性や論理性という観点から評価し、これらの三要素の関係性がより明確になり、合理性や論理性が高まるように文章を修正してください。

[文章]
宝物を取り戻すために(目的),キビ団子を用意し(方法),鬼を退治した(結果)。

[望まれる出力]
- 修正した文章
- 修正ポイント

結果です。

[修正した文章]
宝物を取り戻すために(目的),桃太郎はキビ団子を用意し、これを使って動物たちと協力し(方法),最終的に鬼を退治して宝物を取り戻した(結果)。

[修正ポイント]
1. 主語「桃太郎」を追加し、誰が行動を起こしたのかを明確化しました。
2. キビ団子を用意する理由として、「動物たちと協力し」を追加し、方法の目的を明確化しました。
3. 結果の部分に「宝物を取り戻した」と具体的な成果を追加し、目的と結果の関係性を強調しました。

ChatGPTで修正された文章では、目的・方法・結果の関係がより明確になりました。

ブログで紹介されている次のお手本と比較しても、この文章はそれほど遜色ありません。

鬼に奪われた宝物を取り戻すために(目的),必要な味方を集めるためのキビ団子を用意し(方法),得られた味方と協力して鬼を退治し,奪われた宝物の30%を取り戻した(結果)

http://www.ams.eng.osaka-u.ac.jp/user/ishihara/?p=626に記載されている修正例

では、ステップ2に進みましょう。ステップ2では、目的の背景説明と結果の意義を追加しましょう。これによって、価値をさらにアピールすることができます。「なぜその目的を達成したいと考えたのか」という背景と、「得られた結果によって何が言えるようになったのか」、もしくは「今後どうよくなっていくのか」を示すことが重要です。

これらの情報をChatGPTに追加してもらうためには、背景と結果の価値に関する情報を提供する方がベターです。ですが、ここではChatGPTは『桃太郎』の物語を良く知っていると過程して、「背景」と「結果の意義」についても推論させてみます。

文章に「目的」「方法」「結果」の三要素の前後に次の2つの追加する要素を加え、修正してください。

[追加する要素]
-「なぜその目的を達成したいと考えたのか」という「背景」
- 「得られた結果によって何が言えるようになったのか、もしくは「今後どうよくなっていくのか」という「結果の意義」

[文章]
宝物を取り戻すために(目的),桃太郎はキビ団子を用意し、これを使って動物たちと協力し(方法),最終的に鬼を退治して宝物を取り戻した(結果)。

[望まれる出力]
- 修正した文章
- 修正ポイント

結果です。

[修正した文章]
鬼によって奪われた宝物が村の平和を脅かしていた(背景)ため、桃太郎は宝物を取り戻すことを決意(目的)。彼はキビ団子を用意し、これを使って動物たちと協力を結び(方法)、最終的に鬼を退治して宝物を取り戻した(結果)。この結果により、村の平和が回復し、人々が安心して暮らせるようになった(結果の意義)。

[修正ポイント]
1. 背景として、「鬼によって奪われた宝物が村の平和を脅かしていた」と追加し、桃太郎が目的を達成したい理由を明確化しました。
2. 結果の意義として、「村の平和が回復し、人々が安心して暮らせるようになった」と具体的な影響を追加し、達成された目的がどのように現実に影響を与えたかを示しました。

いかがでしょうか。背景に関しては、宝物が奪われた結果具体的にどのように村の平和が脅かされたのか、という点が気になりますが、まずますです。

次の文章が、ブログで紹介されている手本です。お手本の文章の方がより背景の説明と結果の意義の関係性がクリアです。

幾度もの鬼の襲来で村は疲弊し,壊滅の危機が迫っている(背景).鬼に奪われた宝物を取り戻すために(目的),必要な味方を集めるためのキビ団子を用意し(方法),得られた味方と協力して鬼を退治して宝物を取り戻した(結果).これを破損した村の主要設備の修復に充てることで,当面は壊滅の危機を脱することが可能だろう(結果の意義).

http://www.ams.eng.osaka-u.ac.jp/user/ishihara/?p=626で紹介されている修正例

曖昧な点をより明確に記述するようにChatGPTに指示を加えるというのも一案ですが、ここでは次のステップ3に進みましょう。

ステップ3では、適切な接続詞や役割紹介語を用いて推敲しましょう。これにより、各文の役割が明確になります。適切な接続詞や各文が果たす役割を紹介する言葉をChatGPTに追加してもらいます。

文章のどの文が背景、目的、方法、結果、意義なのかを明確にするために適切な接続詞を追加し、各文が果たす役割を紹介する言葉を追加してください。

[文章]
鬼によって奪われた宝物が村の平和を脅かしていた(背景)ため、桃太郎は宝物を取り戻すことを決意(目的)。彼はキビ団子を用意し、これを使って動物たちと協力を結び(方法)、最終的に鬼を退治して宝物を取り戻した(結果)。この結果により、村の平和が回復し、人々が安心して暮らせるようになった(結果の意義)。

[望まれる出力]
- 修正した文章
- 修正ポイント

結果です。

[修正した文章]
背景として、鬼によって奪われた宝物が村の平和を脅かしていたため、目的を達成するために、桃太郎は宝物を取り戻すことを決意した。そこで彼は方法として、キビ団子を用意し、これを使って動物たちと協力を結んだ。結果として、最終的に鬼を退治して宝物を取り戻した。この結果の意義として、村の平和が回復し、人々が安心して暮らせるようになった。

[修正ポイント]
1. 各文の役割を紹介する言葉(背景、目的、方法、結果、意義)を追加し、その役割を明確にしました。
2. 適切な接続詞(ため、そこで、として)を追加し、文章のつながりを明確にしました。

少し文章が不自然ですね。

ブログで紹介されているお手本は、より読みやすく、理解しやすい敏捷になっています。

幾度もの鬼の襲来で村は疲弊し,壊滅の危機が迫っていることが問題となっているそこで本研究では,鬼に奪われた宝物を取り戻すことを目的としその達成のために必要な味方を集めるためのキビ団子を用意した.その結果,得られた味方と協力して鬼を退治して宝物を取り戻した.この成果は,これを破損した村の主要設備の修復に充てることで当面は壊滅の危機を脱することが可能になるという点で重要である

http://www.ams.eng.osaka-u.ac.jp/user/ishihara/?p=626で紹介されている修正例

そこで最後に、ステップ4で最終チェックを行いましょう。不自然な言い回しや、文と文とのつながりが悪い箇所をChatGPTに修正してもらいます。s

日本語として自然な表現になっているか、こなれた文章になっているか、文章間のつながりが良いかといった観点を含めて、文章全体を推敲してください。「である調」にしてください。

[文章]
背景として、鬼によって奪われた宝物が村の平和を脅かしていたため、目的を達成するために、桃太郎は宝物を取り戻すことを決意した。そこで彼は方法として、キビ団子を用意し、これを使って動物たちと協力を結んだ。結果として、最終的に鬼を退治して宝物を取り戻した。この結果の意義として、村の平和が回復し、人々が安心して暮らせるようになった。

[望まれる出力]
- 修正した文章
- 修正ポイント

結果です。

[修正した文章]
鬼によって奪われた宝物が村の平和を脅かす背景のもと、桃太郎は宝物を取り戻すことを目的として決意する。方法として、彼はキビ団子を用意し、これを駆使して動物たちと協力関係を築いた。結果として、鬼を退治し、宝物を無事に取り戻すことに成功した。この結果は意義深く、村の平和が回復し、人々は再び安心して暮らすことができるようになった。

[修正ポイント]
1. 「である調」に文章を修正し、よりフォーマルな表現に変更しました。
2. 読みやすさや自然さを向上させるために、表現を一部変更し、冗長な部分を簡潔にしました。
3. 「こなれた文章」になるように、適切な語彙や表現を用いて文章を整えました。

いかがでしょうか。各ステップに従ってChatGPTに指示することで、論文風のアブストラクトが作成できました。「目的として決意する」や「方法として」といった不自然な表現が残っており、改善の余地がありますが、全体的には論理的な文章になっています。

アブストラクトを作成するというタスクから感じることは、指示を明確にするプロセス自体が、論理的な思考を促すということです。さらに、ChatGPTとの対話で生成された文章は自分で書いたものではないため、客観的に評価することができます。この客観的な評価が可能な点が、ChatGPTを活用する大きな利点となります。この客観的な評価は、メタ認知能力の向上にもつながります。

メタ認知能力は、自分自身の思考や学習プロセスを理解し、適切に評価するために重要です。ですが、自分の書いた文章を客観的に評価するのは難しいことです。他人の書いた文章であれば、客観的に評価できますが、自分が書いた文章だとどうしても評価が甘くなりがちです。ChatGPTは文章作成のプロセスを助けるだけでなく、自己評価やメタ認知能力の向上にも役立ちます。

ということで、ChatGPTを「データベース」として情報を引き出すために使うのはもったいないことです。それだけでなく、推論エンジンとして活用することで、より論理的に考える助けとなり、文章作成においてもパートナーとして働いてくれます。

今回は、アブストラクトを書く際の論理的な文章作成におけるChatGPTの使い方を紹介しました。ChatGPTとの対話を通じて論理的な思考を促し、客観的な視点を持てることが、ChatGPTを使う大きな魅力だと感じています。こうした方法をもっと活用することで、より質の高い文章が作成できるのではないかと思っています。

ぜひ、みなさまも試してみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ではまた。ciao

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