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他人の手持ち花火

夏の夜の散歩は、手軽に現実から離れられる気がして気持ちがいい。
昼間より涼しい風が吹くし、虫の声が聞こえて、水の流れが聞こえる川沿いをサンダルでふらふら歩く。

今日も何もしなかったなあという気持ちを引きずって夜の散歩をしていると、「昼間に活動すればいいのに」と当然の発想が湧くけど、みんなが元気で行き交う明るい場所より、夜の暗闇に溶けていく方が心地よいと感じてしまう。

いつも曲がる大きい道ではなく、住宅地の間を抜ける路地を何気なく通ったら、親子が手持ち花火を静かに楽しんでいた。

ぱちぱち弾ける花火を見る子供は、はしゃぐというより半分呆気にとられる様子で、親は嬉しそうにそれを見守っていた。
それを偶然見れたことが、とても大きな充実感に繋がった。大袈裟だけど今日一日の憂鬱さが払拭された気がした。

そこで何気なく見た手持ち花火を楽しむ様子は、わざわざ大きな会場へ行って見た花火大会や、高校時代に部活仲間と公園でやった花火なんかよりも、よっぽど自然に夏の夜の一部になっている気がした。

本当に素直じゃないけど、誰かと夏らしさを満喫するためにイベントとして見る花火はどうしてもハードルが高く感じてしまい、感情が追いつかない。どちらかというと、終わった後の混雑が面倒だなあとか、トイレが混むから長時間いたくないという感情の方が勝る。

あと自分でやる手持ち花火は、終わり際が無性に寂しい。それも含めて風情なのだろうし、最後にヘビ花火とか変なのを残してニョロニョロを眺めて終わるのも嫌いではないけど。

無計画にふらつく中で「あ、夏の夜だな」とふいに思えたことが、何だかすごくラッキーで、またいつかこういう瞬間に出会えるかなと思うと未来が少しだけ楽しみになった。

ジメジメしたり、怠くて先が嫌になることもある時期ですが、皆さんも健康でお過ごし下さい。

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