現代語訳『我身にたどる姫君』(第三巻 その11)

 だが、権中納言に衣の裾《すそ》をつかまれただけでなく、あろうことか髪まで引っ張られたため、あまりに嘆かわしくひどい振る舞いだと思った女三宮は覚悟を決め、手を叩《たた》いて人を呼んだ。
 程なく目を覚ました女房たちがやって来る気配がしたため、権中納言は「とんでもなくあきれたことです」と恨み言を言う間もなくその場を後にしたが、これほどまで嫌われた我が身が情けなく、ひどく思い知らされた。
(続く)

 逃げ出そうとする女三宮に対し、権中納言は強引に引き留めようとしますが、女房たちを呼ばれてしまい、すごすごと退散することになりました。権中納言にとって、まったく予想外の展開だったはずですが、それほどまで相手に忌み嫌われているということになります。

 一点フォローしておくと、女三宮の髪を引っ張ったのは権中納言ではありません。後ほど、物に引っ掛かっただけだったことが明かされます。しかし、それをやりかねない振る舞いだったのは間違いなく、個人的にあまり権中納言をかばう気にはなれません。

 それでは、次回にまたお会いしましょう。


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