現代語訳『我身にたどる姫君』(第三巻 その26)

 女四宮と顔を合わせているだけで、権中納言は日頃の鬱屈《うっくつ》とした思いが慰められたが、女三宮とは母親違いの姉妹とはいえ似通ったところは何一つなかった。三月末ののどやかな夕暮れに、八重咲きの山吹が何とも言えず美しく咲き満ち、その色や香りが鮮やかな葉の青に映えた様はとても瑞々《みずみず》しい。女四宮の容姿には少しも不満な点はなく、ただ見ているだけで物思いを忘れてしまうほどであった。

(続く)

 権中納言と女四宮の新婚生活はひとまず良好なようです。
 今回、女四宮の描写シーンに「瑞々しい八重咲きの山吹」が採用されていますが、少し前に姫君が「橘《たちばな》」と共に描かれていたのと比較すると、若さ・明るさ・華やかさが際立ちます。権中納言もおおむね満足しているようですが、女三宮や音羽山の姫君への思いを忘れてしまったわけではありません。

 それでは次回にまたお会いしましょう。


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