現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その1)

 姫君は夢路に惑うような心地で月日を過ごしていた。今の状況がどのような事情に基づいているのかと知る術《すべ》もなく、言いようのない不安に駆られていたが、「ここはどこなのか、あなたは誰なのか」と尋ねるのは見苦しく、小賢《こざか》しく思われるためにできなかった。ただ、いつも尼君と親しく話をしていた人が、「ご心配なく」と言うままに誘い出され、かしずかれて暮らしていた。だが、その人はいつも付き添っているわけではない上に、今いる屋敷がどこにあるのかと教えてくれる人も身近にいなかったため、いきなり別の国に生まれ変わったような気分だった。
(続く)

 第二巻は姫君が置かれている状況のおさらいから始まります。関白に引き取られる前、宮の宣旨《せんじ》の里に連れて来られたときの様が描かれています。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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