ねじまき鳥が神経から洗脳してくる

どうも。健康が一番。


観劇をしてきました。

あの村上春樹さん原作の名著『ねじまき鳥クロニクル』の舞台版です。

演出はその界隈では話題性の強い印象の藤田貴大氏が手掛けています
私は彼の演出する舞台を、観よう観ようと思いながらずっと観る事が出来ませんでした。はっきりとした理由があったのですが、ここではまだ話したくないので割愛。
念願、というか因縁の、観劇になります。


原作未読。粗筋のみの予備知識と、主人公がWキャストではなく役者二名が一人の人間の二面性を演じるという設定のみ頭に入れた上での鑑賞。

藤田さんは、あの芝居とあの芝居、あとあれも演出していたな…。
メインアクター・アクトレスの成河さん、門脇麦さんはあれとあれに出ていたな…。

そんなにわかの状態で、どれだけ初見の演出と、あの強烈な世界観を持つ村上春樹ワールドを理解出来るのだろう、と観劇に臨みました。


結果

「どうして今までこの人の演出を観なかったのだろう」と大いに後悔したほどでした。

良質な音楽の生演奏と、強かな表現を軸にしたコンテンポラリーダンスも相まっての事ではありますが、視覚・聴覚のみならず、脳髄・脊髄まで浸透してくるような圧倒的表現力。

時には観客を包み込み、時には蹂躙するようなその勢いは、板の上の隅から隅まで隙がない。というか、無駄な箇所がない。

これが、藤田貴大氏…。そう全身で感じました。
今は亡き「世界のニナガワ」と呼ばれた演出家・蜷川幸雄氏が認めただけの事はあります。


演出って結局

説得力に尽きる節があると思います。

小説でいうところの文脈であったり、絵画でいうところの空白だったり。

目を惹きつけるきらびやかさも重要なテクニックですが、演劇における根幹は、上記のソレらに値する"演出"という部分なのでは、と思います。


だって、演出一つで、その舞台を活かすことも殺すことも出来る。
どんなに役者の演技が上手くても、演出が活きていないものは「良い舞台」とは言えないでしょう。
観劇歴の浅い私でも、何度かそういうものを観て後悔したことすらあります。


例えば、演劇における劇場という空間は、場面転換する場合、さっきまで庭だった場所を3秒後にオフィスにしなければいけない時があったりします。
現実には「どう転んでもここは○○区の△△にある■■劇場」という認識が、観客には100%の前提として備わっている。そこを「ここは庭か」「オフィスで働いているんだな」と観客に間違いなく感じてもらう為の空間を作るのは演出家の仕事になります。

今作は未読でしたが、村上春樹氏の小説は『海辺のカフカ』を筆頭に何冊か読んだことがありました。

これは読んだことのある人には分かる感覚だと思いますが、彼の情景描写というのは、とても生々しいのに現実離れしているような奇妙さを伴っています(私は深堀りして読んでいた訳ではないので、熱心なファンの方ならばもっと適切な表現をしてくれる事でしょう)。
反面、小説だからこそそれが体感出来るような部分もありました。
所謂"映像化不可能"というようなやつでしょうか(『ノルウェイの森』など彼の作品が原作の映像作品は観たことがないのでなんともですけど)。

今回の舞台に関して言えば、原作は未読ではあるものの、役者の台詞・動きが一見すると理解しづらいような場面に際して、何が重要か、どのような動き・言葉に注視すべきかが、演出として非常にまとまっている印象を受けました。

だから、突然場面がとんだと思っても、見慣れないものが出てきたとしても、ストレスを感じる事がなくその空気を受け入れられる。

「舞台化されたからと思って観てみたけど、やっぱり村上春樹はわけわかんないな」という感想を述べるような輩の口を、全力で塞ぎにきているわけですね。

コンテンポラリーダンスや歌をふんだんに取り入れた結果、その相性も抜群と言えました。


というか、何度も言いたいけどとにかく無駄がない
面白かったのでもう一回観たいのですが、TV放映や円盤化のチャンスがあるのであれば、

役者の顔は遠くても良いから絶対に定点カメラにしてくれ!!!

…と本気で思う。
それくらい、板の上の空間全てを余すところなく感じないと気が済まない。

かと言って、じゃあくどい演出なのかな? ということはまるでなく、むしろその逆。
舞台に隙がなく、余すところなく使う。それでいて、シンプルで無駄がない。余計な飾りのような演出はつけていないからこそ、観客が集中出来るのです。

板の上の空間は、全てリアルタイムで流れているその場面の為だけに常に存在している。

少しでも目を離すのが勿体ないくらいの気持ちで観ていたので、若干の疲労すらありました。おかげでアドレナリンどばどばです。


内容に関する考察や感想を述べようかとも思ったのですが、正直そこは原作を読んでからまた考えたい気もします。
今回はとにかく「久々にこういう演劇が観たかった!」という私の隠れた欲求を叶えてくれた悦びをメインに綴ります。

2020年はまだ10か月ありますが、既に「今年一番満足度の高かった演劇」にランクインしそうな予感。


さあ、健康に気を付けながら、程々に楽しんでいくとしましょうか。



今日はそんなところでしょうか。
お疲れ様でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?