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水の空の物語 第4章 第34話

 さらさらと音を立てて、葉が揺れる。

 立ち籠める竹の香りは、体を包んでくれているようだった。

「ねえ、夏澄くん」

 緊張気味にいった風花に、夏澄は、どうしたの? と振り向いた。

「わたしも手伝う。わたしにとっても春ヶ原は夢だから」

 夏澄は、風花の服を自分のほうに引いた。

 体勢を崩し、風花は夏澄の背中にぶつかる。今度は、互いに背中合わせで、もたれかかる形になった。

「だいじょうぶだよ」
 夏澄は風花の服を握る手に、力を込める。

「こうやっていれば、だいじょうぶ。嫌なことは忘れられるから……」

 夏澄の言葉は、魔法のようだった。

 うれしいのに、風花は泣きたくなった。

「風花、帰り遅くなっちゃったね」
「ううん。わたしがここにいたかったんだから」

「もう少しこのままでいていい?」
「……うん」

「私も休みたいな」

 スーフィアがいい、うれしげに背中を向けて、風花たちに寄りかかった。

 風が流れて、竹の葉ずれの音が響く。

 夜風を浴びながら、風花たちはずっともたれ合っていた。



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