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水の空の物語 第2章 第24話

「ローフィ?」

「そんな名前で、呼ばれていた記憶はない?」

 夏澄は瞳を伏せて訊いてくる。水色の髪の向こうの瞳は、壊れそうに揺れていた。

「記憶って、飛雨くんに消された記憶のこと?」

「ううん、それよりずっと前。遠い昔……」
「う、ううん……。ないけど」

「本当に? よく想い出して」

 意味は全然分からないが、夏澄が彼にとって、とても大事なことを訊いているのは分かる。

 風花は目を伏せて、ゆっくり考えてみた。だが、そんな記憶はなかった。

「ないと思うよ……」

 すーっと、夏澄の瞳から表情が消えていく。

 青い瞳に影が差した。冷たい泉の底のような、静かで深い色だと感じた。

 やがて、夏澄はとてもやわらかく微笑んだ。いつもの優しげな、でもどこか凛とした、夏澄らしくない笑顔だった。

「……どうしたの、夏澄くん」

 夏澄は風花の言葉に答えない。

 両腕で風花を横抱きにし、さっきの大木まで跳躍した。風花に背を向けると、夏澄の体は霊力の水色の光に包まれる。

「ごめんね、風花」

 急に、夏澄の姿は見えなくなった。



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