水の空の物語 第5章 第23話
「どうかした? 優月」
夏澄が、まっすぐに優月を見ていた。
首を傾げ、少年らしい無邪気な瞳で、問うようにする。
なんて美しい瞳なんだろう、と優月は思う。
たまに、どきっとするくらい、彼は純粋な心を持っている。
泉から湧き出たばかりの、澄んだ水のようだ。
「いえ、なんでもありません。……星水雨、本当に美しいですね」
「春ヶ原のことが心配?」
夏澄は悲しげな色に瞳を染める。
彼は、素直に感情を顔に出す。と、優月は思った。
見た目は幼くても、歳は優月とは比べものにならないくらい上のはずだ。
なのに、心は少年のままだ。美しすぎて、胸がつかれる。
立貴の話だと、不老不死の精霊は、みんなそうなのだそうだ。
若いうちに、心の成長が止まる。
永遠の世界で幸せでいるため、感情の起伏を無くさないため、必要なのだろう。
水の精霊には、他にもふしぎなことがある。
数多くある精霊の種族の中で、優しさだけでできている唯一の一族なのだ。
彼らは、決して他者を傷つけない。そんな性質を守るため、霊力がとても強い。
精霊たちの中で、特殊な存在だ。
水の精霊の国も特殊だ。優しさだけの国で、まるで楽土のようだ。
防御に重きを置くから、外界との接触はあまりしない。静かに穏やかに暮らしている。
すべてが穏やかだから、争いは起きない。
だから王という存在もなく、皆、同格に生きている。
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