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イギリスの終戦記念日がハッピーすぎて戸惑った話

5月8日。イギリスのテレビは、一日中VEデーを祝う特別番組であふれた。そもそも、VEデーってなんだろう?

VEデーとはヨーロッパ戦勝記念日 (Victory in Europe Day)のことで、「第二次世界大戦において連合国がドイツを降伏させたとして、ヨーロッパにおける勝利を記念する日」である。75周年に当たる今年は、イギリスでは同じ週の月曜から休みを移動させて祝日になっていた。

今年、私がイギリスでVEデーを過ごして驚いたことが2つある。1つは、「ヨーロッパでは3カ月も早く戦争が終わっていた」ということと、「戦勝国では、終戦記念日はハッピーなものになりえる」ということだ。

ヨーロッパでは3カ月も早く戦争が終わっていた

日本で生まれ育った私にとって終戦記念日とは、8月15日以外ではありえなかった。8月の2度の原爆投下を経て、ようやく終焉を迎えた第二次世界大戦。ところが、ヨーロッパでは5月にとっくに戦争が終わっていたのだ。テレビに映るのは、75年前の今日5月8日にドイツ降伏を祝って歌い踊るイギリスの若者たちの姿。「ヨーロッパで戦争が終結したあとも、極東の戦いでは犠牲が出ました」とアナウンスが付け加えられていたが、その付け足された3カ月間の悲惨さを知る私からすると、なんだか虚しくて拍子抜けする感じがした。日本も同じときに戦争をやめられていたら、どれだけの人が命を失わずに済んだのだろう。どの国の視点で歴史を切り取るかによって、見え方が変わることは想像できると思っていたけれど、終戦記念日までもが(しかも3カ月も)違うとは思わなかった。

戦勝国では、終戦記念日はハッピーなものになりえる

日本も終戦記念日には多くの特別番組が放送され、戦争の悲惨さや当時の生活の困窮ぶりを伝える。どの番組にも共通するのは、「こんなにもむごい戦争というものを、日本は2度と繰り返してはならない」というメッセージだ。

もちろんイギリスでも、女王の演説のなかで「戦争を2度と繰り返してはならない」とふれられていたが、それ以外での戦争の扱われ方がとにかく違うのだ。BBCのワイドショーでは、イギリス国旗カラーにスタジオが飾り付けられ、バッキンガム宮殿を背景に歌手たちが戦中にうたわれていた歌をうたう。インタビューを受ける人々は「(軍人だった)祖父を誇りに思う」「自由なイギリスを守ってくれてありがとう」と口にする。コロナウイルスがもたらした外出禁止がなければ、人々は集まって、バーベキューやアフタヌーンティーをしてVEデーを祝うそうだ。終戦記念日とは、こんなにもハッピーな日になりえるのかと衝撃だった。イギリスの歴史では、終戦記念日はファシズムに打ち勝った祝うべき日なのだ。

戦中に歌われた「We will meet again」という歌をうたったりして、現在のコロナウイルスとの戦いを第二次世界大戦と重ねるような表現もあってかなりぎょっとした。イギリスでは、「戦いはいつか終わる」という意味でされた表現なのかもしれないが、私にとっては一連のお祝いムードが、戦争を美化しているように感じられて違和感があった。戦争は悪で、二度と繰り返してはならないのだと、日本で育った私には刷り込まれている。イギリスでも、第二次世界大戦によって多大な犠牲は出たはずなのに。これが戦勝国と敗戦国の違いなのだろうと思った。イギリスでは、「ファシズムに勝利した」という文脈の中で、戦争が部分的に正当化されているように見えた。敗戦国では、「あの戦争は正しかった」という考えはきっと生まれない。

普段の暮らしの中では、歴史はなかなか語られないが、こういった機会にふと表出するのだろう。歴史認識の違いと、文化の違いは切っても切り離せない関係にあると思った。

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