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ホタル アルバム『事件』インタビュー

ホタルが16年ぶりとなるフルアルバム『事件』をリリースする。それぞれに新しい人生を重ね、再び集まった4人が、どういう想いでこの作品を作り上げたのか。生きることと音楽を作ることが同一線上にある、そんな作品をぜひ多くの人に聴いてもらいたい。(体調不良により、たかしは欠席)


■16年ぶりにアルバムを出そうと思ったのは、何かきっかけがあったんですか。
慎一郎:まず、曲を作ろうっていうことになって、形にした曲をライヴでやってみたらものすごく反応がよかったし、自分たちでも手応えを感じたので、音源化したいと思ったのがきっかけなんですね。新曲は結構出てたので、それだったらアルバムを作りたいと言ったのは俺です。
杏太:その曲が「落夏星」だったんですよ。それを音源化したかったから、形態はどうする?、アルバムにしようぜってなったんです。「落夏星」は、これでアルバムにいけるとみんなが思えるぐらい強い曲でしたね。


■ただ復活するだけではなく、さらに新しい曲を作ろうというモチベーションはどこから出て来たんでしょう?
慎一郎:僕と杏太さんで意見が違うかもしれないですけど、新しいことをやらないなら、別にやる必要性がないかなって。
杏太:一緒だよ。バンドをやってるんだったら、曲を作るのが当然かなって。前に進まないんだったら、初めの復活一回で終わってたらよかったから。
がお:新曲を作らないと続かないと思います。昔の曲だけをやるためにたまにリハに入るだけなら、そんなに楽しくはないよね? やっぱり新しいものをみんなで作って、“いいね、いいね”ってなるときがバンドは一番楽しいから。
慎一郎:活動を続けるんだったら、何かしら自分たちで生み出さないと全くやる意味がわからないですね。人によっていろいろ違うと思いますけど、俺らはそういう考えだったんです。

■なるほど。ただ、LUNA SEAファンはやっぱり「ROSIER」を聴きたい、みたいなのがあるから、新曲を作ることがチャレンジングな一面もあるかなと思ったりもするんですよね。
杏太:昔の曲が聴きたいお客さんの気持はもちろんわかるし、復活バンドの新曲なんてそんなに望まれてないと思ってるんですよ。でも、新曲はバンドが前を向いてるという意思表示だと思うんです。求められてなかろうが、俺らがやりたいんだからやるっていう提示をしたくて。守っててもどうにもならないし、じゃあ、攻めたほうがいいかなって思いました。
慎一郎:攻めてるのか守ってるのか、わかんないけど。
杏太:商業的に考えたりしたら、昔の曲をやることで守る人もいるじゃん。このアルバムにしたら、「サクラチル」が入ってたりするのが守る流れだと思う。
慎一郎:なるほどね。でも、面白くないよね。
一同:(笑)

■曲を作るという点で言うと、以前ホタルをやっていたときと、何か違うところはありますか。
慎一郎:僕は違います。復活してから出した『社会に散った日』のときもそうなんですけど、この年齢になって集まってるわけだから、その人の生きて来た人生が絶対反映されると思うんです。それが見たいんです。アルバムを作る話をしたときに、みんな40歳になったんですね。だから、あなたの40年間どうだったのっていう探求心だけです、俺は。

■以前は、売れようとかバンドで食っていこうみたいな部分があったわけですよね。それがなくなったことから生じる違いとか。
杏太:そこはそんなに変わらないかな。『社会に散った日』と『遠き落日』を作ったときと、同じようなテンションだった。ガツッとしたものが一曲目でなくちゃいけない、ぐらいで。
慎一郎:俺は昔からなんですけど、ホタルらしい曲は個人的にはいらないんですよ。絶対的にいい曲がいる、それだけなんです。だから、今回も一緒です。杏太さんとかがお君とかは、ホタルのお客さんが聴いてくれることをある程度意識しながら曲を持ってくるんですよ。やっぱりちょっと昔の匂いがするような曲が多くて。俺は全くそれはないですね。
杏太:やっぱり多少なりは気にしますよ。自分がファンだったバンドがあからさまにガラッと変わったことをやったら、ちょっとついていけないってなるから。今までの流れは、誰かが押さえてたらいいんじゃないかなと思います。結果的に、慎君以外の3人は昔っぽい曲を作ってきたんですよね。

■そこは、16年を経た今というのがありつつも、ホタルを意識した部分もあると。
杏太:あります。ダンスミュージックとか好きだけど、いきなり持ってきて、みんながいいよって言っても、ちょっとね(苦笑)。

■がおさんは、違いという点ではいかがですか。
がお:自分は違っていることはそんなにないと思いますね。自分の引き出しの中から出したものを叩いて、“違うな”ってみんなに言われて(苦笑)。“何が違うの?”って。
慎一郎:それの繰り返し(笑)。“もう引き出しないの~?”って言う。
がお:ドラムに関しては何も変わらないです。

■作曲するとか、作品を作るということへのモチベーションについてはどうでした?
がお:最初は、正直なところ、アルバムを作るのは重たいなって思いましたね。本当に作れるのかなっていうのが始まりでしたね。

■制作が始まって気持ちが変わっていった?
がお:結構、みんなが曲をさくさく持ってきてたから。
慎一郎:誰かは一曲しか持ってこなかったんですけど。
がお:(苦笑)

■制作が進むに連れ、いけるなっていう手応えが出て来たとか?
杏太:いけるなって思った?
がお:いけるな、とは思ってなかったかな。
杏太:いっぱいいっぱいだったよね。
がお:だって、ドラム録りのときも、まだベースとかギターが固まってない状態だったから。
杏太:以前は、がっつりプリプロをしてたけど、今回はなかったんです。


変わらないホタルらしさと今だから生み出せるものと


■慎一郎さんがおっしゃってるみたいに、人生が反映するみたいなものを感じるところはありましたか。

慎一郎:杏太さんに関しては歌詞まで全部おまかせしたんで、今どういう心境でいて、それを出してきたのかを読み解きたかったです。がお君に関してもキーワードちょうだいよって言ったし、たかちゃんにも歌詞を書けるところがあるんだったら乗せてみてよって言ったし。それを見ながら、この人はこの曲に対してこういう情景を見てるんだなっていうのが見えたのが面白かったですね。音楽的なものに関しては、あなたたちあんまり変わらないのねって(笑)。もちろんホタルに寄せてくれてるというのはあるんですけど、たかちゃんなんて、本当にあなた、時が止まったままですか、っていうような原曲だったんですよ。なんですけど、それを聴いて、この人はずっとこういうのが好きなんだなっていうのがわかる楽しさはありましたね。

■確かに、たかしさんの書いた2曲「レッド」と「渇きと歓楽街」はホタルっぽいですよね。
杏太:「レッド」は特にホタルっぽいよね。
慎一郎:最初はベースラインとメロだけだったんですけど、チェッカーズが始まったかと思いました(笑)。懐かしかったです。
杏太:たかしが曲出しで最初に持ってきたのが「レッド」ですね。だから、「落夏星」のアレンジが終わってすぐに手を付けて、去年の今頃はライヴでやってたんです。これがカッコよく仕上がりそうだったから、新曲だけでアルバムも作れるのかもと思って、もう一回曲出し会をやったんです。「渇きと歓楽街」は、たかしがスラップを取り入れたアレンジで持ってきてたんですよね。昔はスラップはやってなかったんですけどね。あいつ、結構チャレンジャーなんですよ。
慎一郎:ここ最近ね。
杏太:すごく前向きで。
慎一郎:昔と比べて、一番一歩前に出てるのはたかちゃんだと思います。自分を主張してくるんです。
杏太:アレンジとかもガンガン言ってくるよね。
がお:こうしたいっていうのを結構持ってくる。

■杏太さん作曲の「花時雨」と「泣き空」は、アルバム全体の流れからはちょっと異色の2曲ですよね。
杏太:「花時雨」は、原曲だけだとすごく歌謡なんですよ、それをわざとアレンジで崩してるんですね。普通にアレンジしたら「未練」みたいになっちゃうのが想像できたんで、挑戦してみました。ここまでメタルっぽいものはあんまりやってないですね。
がお:こんなにズクズクいってる音楽はホタルにはない。あ、ズクズクいっちゃうんだって思いました。

■これは、女性の心情を書いている歌詞?
杏太:どっちでもいいですね。
慎一郎:あ、そうなの? 女性だと思ってた。
杏太:最近は、女性も男性もあんまりねぇなって思ってて。女性だからこういう考えみたいなのってもうないでしょ。

■そういう時代でしょうけど、慎一郎さんの書く歌詞には古典的な女性像みたいなのが出て来るから、今の杏太さんの発言が新鮮に聞こえましたね。
杏太:俺ね、歌詞は自分なんですよ。想像とかもなくて。自分の気持ちを言ってるだけで。だから、この歌詞は女言葉のほうがハマりそうな気がして、“疲れたわ”とかって書いちゃっただけですね。

■「泣き空」は、シンプルだし、爽やかですよね。
杏太:これぐらい開けてる曲があってもいいんじゃないかと思って、ねらっていきました。ライヴで楽しそう。

■アルバム全体の印象を暗いものにしすぎないようにみたいな考えもあったんですか。
杏太:そんなことないです。重くて暗いほうが好きだから。でも、一曲こういう曲があってもいいかなと思って書きましたね。
がお:杏太さんが「泣き空」を持ってきて作り出したときは、ちょっと明るすぎるかなとも思ったんですよ。慎君が歌ってるのもあんまり想像できなくて。どうなるかなという不安は俺の中であったけど、慎君が録ったのを聴いたら全然大丈夫だって思いましたね。
杏太:ジュリィーをやってたときに、こういう曲はあったから、慎君が歌えることはわかってたんです。俺としては、明るい曲というよりは、キャッチーな曲を作りたかったんですよね。

■慎一郎さんにとっては新鮮さみたいなものは感じました?
慎一郎:ジュリィーの後期はこういうパンク寄りの曲を歌ってたんで、何とも思わなかったですね。自分で好んで聴く曲もそういう曲が多かったりするし。キーも一番自分の気持ちいいところだったんで、2テイクぐらいで録れました。

結局、生きなきゃいけないから

慎一郎:「素晴らしき日々」は、こういう曲を作ってほしいというリクエストが、がお君からあったんです。ざっくりと、あんまり希望がない歌詞がいいみたいな。
がお:重い、暗いのを注文してたんですけど、ちょっとオーダーの仕方が違ったみたいで。
慎一郎:2回作り直して、それから作ったのがこの曲ですね。
がお:2回目にきた曲が、女性のドロドロした感じの曲だったんですよ。でも、俺はちょっとそれでは泣けないと(笑)。男の暗いやつが欲しいんだよねっていうのでオーダーしたら、たかちゃんからはお前が作れって言われました(苦笑)。

■暗いものを入れたかったんですか。
がお:最後のほうに「素晴らしき日々」はできたんですけど、それまでに曲を並べたときに、ちょっと明るいかなって思ったんです。だから、ちょっと暗いのがほしい。何なら、光なんかないのがほしいって思ったんです。昔のホタルも、「9才」とか、詞だけで言うと光がないのが多かったじゃん。そういうものもあっていいかなと思ったんです。だから、光は入れないでほしいと言いました。

■確かに希望を見せる印象はこれまで以上にありますよね。今、聴き手に対して残したいことは、救いのなさではなくて、希望だったりするんでしょうか。
慎一郎:現状で言えばそうかもしれないですね。でも、昔も別に暗いものばっかりというわけではないんですよ。表現の仕方が変わっただけかなと思います。

■40歳、40年生きて来たからこそ、書きたいこと、書けることという変化はあるでしょうね。
慎一郎:それはあると思います。結局俺の音楽って、日常だなと思ってるんです。日常的に感じてることしか、たぶん言葉にできない。だから、今現状40歳を迎えて、今生きている世界に思うこと。ただそれを表してるだけ。当時は、当時生きていたことに対して思ってたことを表現してただけなんですよね。そのときの自分でしかないというか。

■今、というところでいうと、「社会に散った日」「落夏星」も、夢を諦めたけれども、それでも生きるという、今の生き様そのものが出ているのかと思うんですけど。


慎一郎:結局、生きなきゃいけないから。


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