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Books & 蔵 (KURA) イベントレポート#2 - テーブルトーク 前編(土蔵ツアー)

2021年4月9日(金)、10日(土)に、みよたBOOKSとして第二回目のイベントを開催いたしました。詳細はこちら
コロナ禍の中での開催でしたので、ご来場いただきました皆様にも様々なお願い事をさせていただきました。おかげさまで無事に終了しましたことを改めて感謝申し上げます!

さて、今回はみよたBOOKSメンバーが足繁く通っている小諸のCitta Slowさんの奥の蔵での開催でした。ポップアップ・ブックカフェ「Books & 蔵」のイベントレポートをこれから数回にわけてお送りいたします。

どうぞお付き合いくださいませ。

ポップアップ ブックカフェ(選書、カフェ、の様子)
テーブルトーク 前編(土蔵ツアー)⇦今回の記事はこちら
テーブルトーク 中編 (テーブルトーク/前半)
テーブルトーク 後編 (テーブルトーク/後半)
オーサーズトーク
漆喰鏝絵(こてえ)ワークショップ

ブックカフェと並行して開催するイベントは、今回は2日間で3種類と盛りだくさん。最初のイベントは、今回の会場Citta Slow/Space Lentoのオーナーである蒔田豊明さんによるテーブルトーク「蔵をめぐる冒険」です。

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城下町小諸の人気店Citta Slow。その場所には、かつて北国街道に面して店舗が建っていました。正確な築年数は不明ですが、大正から昭和初期に流行った「看板建築」と呼ばれる建物だったそうで、築100年くらいと推定されます。2019年のリノベーション時に、老朽化した店舗は解体されて駐車場に、店舗裏にあった土蔵3棟はレストラン、食材庫、レンタルスペースとして生まれ変わりました。

今回のテーブルトークは、蔵ツアーとトークの2本立て。参加者の皆さんは奥の蔵の前に集合し、蒔田さんの案内による「土蔵をめぐるマジカルミステリーツアー」に出発します。

写真2

まずは街道から最も奥にある「Space Lento」。この土蔵はもとは吹き抜け構造でしたが、今はロフトを作りつけて、居住空間に変えてあります。天井に滑車があったことから、何かを吊るすなど生業に使われていたのでは、と蒔田さん。使われなくなってからは物置になっていたため、ここには古い家具や建具がしまわれていたそうです。それらは可能な限り建具屋さんによって手を加えられ、扉や家具、床材などに再利用されています。

土蔵に入ってすぐ目の前に、畳敷きのロフトへ向かって古材を再利用した階段が現れ、思わず好奇心で視線がぐいっと天井へ向かってしまう立体的な空間Lento。子どもたちはここへ入ると「忍者屋敷みたい!」と大騒ぎするそう。冒険心を誘う場所です。

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真ん中の土蔵は3階建て構造。1年通して温度変化が少なく、かつては味噌蔵として使われていたようです。今は食材庫になっているこの蔵は、ほとんど手が加えられておらず、最も古い状態が保たれている建物です。かわるがわる中をのぞく参加者の皆さんからは、感嘆の声があがります。

レストランの方へデッキを少し移動すると、レストランへ入る時に誰もが目を引き付けられる、「蔵戸前(くらとまえ)」と呼ばれる大きな観音開きの扉があります。土蔵には泥棒除け、貯蔵、耐火の3つの大きな役割があり、この蔵の戸前は、最も外側の分厚い観音扉、その内側にある引き戸、そのまた内側の網戸の3重構造でこれらの役割を担っています。 

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みなで3つ目の土蔵のレストランの中へ。この土蔵はもともと1階と2階が独立した2階構造で、1階部分は外から出入りし、2階部分は店舗の住居部分の2階とつながっていたそうです。1階の出入り口は、今はレストランのエントランスになっていて、1階と2階はらせん状の内階段でつながっています。

分厚く土を塗り重ねて作られる土蔵。壁の厚さと重さは相当なもので、ピザ窯と薪ストーブの煙突用の穴を漆喰の屋根に開けるのは本当に大変だったとのこと。100年を経てもそれほど状態が良かった土蔵。改築前、屋根と外側は風化して傷んでいたものの、大きな梁と内部の保存状態がとても良く、筋交いを入れて耐震強化して、漆喰を塗ったほかは、この建物にはほとんど手を入れていないそうです。

店内の梁や壁には、昔書かれた漢数字が残っています。蒔田さん曰く、この土蔵を作った当時、大工さんが木組みをする順番を入れたのでは、と。100年前の大工さんの働く姿が目に浮かび、彼らの息遣いさえ聞こえてきそうです。

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そして、ツアーはいよいよハイライトである2階の蔵戸前の探検へ。この蔵戸前は今は改装されてオープンテラスになっていますが、もとは住居とつながった屋内にあったことから保存状態がとても良く、今も開閉が可能です。参加者の皆さんでテラスへ出て、実際に扉に触って動かしてみました。

観音扉の上戸と下戸。扉を壁に取り付ける大きな金具が肘金(ひじがね)と呼ばれる蝶番の役割を果たすもの。戸前の枠にある段は「肩」と呼ばれ、この数が多いほど土蔵としての価値が高いと言われています。

火災時における土蔵の最大の弱点は開口部。弱点を補うために、蔵戸前の内側と外側、両扉、枠には、完全に密閉して空気を遮断する工夫が随所に施されています。肩を多く設けて密閉性を高める、肩と扉の漆喰をピタッと合うほどの精度で塗り付ける、踏み石にも段差を設けて煙を入れないための煙返しの機能を持たせる、などなど。

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ワイワイ言いながら参加者の皆さんが重厚な扉を腕に体重をかけて押して動かし、カチャっと閉めます。そのえも言われぬ感覚。「威厳のようなものが伝わってきますよね。普段の自分の生活と非日常的なものとの境界があるように感じませんか。」と蒔田さん。 

「僕らが一番驚いたのは、観音扉と木の引き戸の間に、樫の木枠の丈夫な引き戸があるのを発見した時です。」漆喰でできたその引き戸は非常に重く、そのままだと戸車に食い込んで沈んでしまいます。それをこの引き戸は、戸車との間にスキーを履かせるような仕組みをもって、するっと出せるよう工夫されています。これには大工さんもびっくりだったとのこと。

今のような先進的な道具がない時代。「この技術はいったいどうして、すごいなと。おそらく当時の大工さんや左官屋さんは、扉がすっと動いてピチッと閉まるように、一つ一つ造作しながら、少しずつ塗り重ねながら調整しつつ作っていたはずです。職人芸の見せどころだったのでしょう。」

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蒔田さんは続けます。「この世界は、土蔵をリノベーションしなかったら見ることができませんでした。秘められた技術、その技のすごさ。私たちの今の日常生活からは想像できない世界があって、ほとんどの日本人は気づきません。それらが残らず、消えていくのはもったいない。だから、この蔵戸前はできるだけそのままの姿で保存しました。」 

「ずっとこれを誰かに見せたかったんです。それが叶って胸のつかえがとれました。」と、にっこり微笑む蒔田さん。参加者の皆さんから笑いが起こります。ちょっとした「冒険」を終え、2階のテーブル席に着席。さて、第2部のテーブルトークの始まりです。

後編(テーブルトーク)へ続きます📚

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