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【感想】吉川浩満『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』(河出書房新社)

吉川浩満さんの新刊『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』(河出書房新社)がとても面白かったです。

特に興味をひかれたのが、人工知能の倫理学を論じている部分。

交通事故が避けられない状況になったとき、自律走行車に搭載された人工知能はどのような意思決定を下すのか。どちらかにハントルを切るかによって、1人の命か、5人の命かが奪われるとなったときに、どのような選択するのか。赤ちゃんと老人、ホームレスとドクターの命のどちらに価値を見出すのか。功利主義的な判断で、意思決定をしていいのかどうか。

自律走行車に限らず、AIがさまざまなことを制御する社会が到来した場合、そういった道徳的、倫理的な問題をどう扱うのか。

昨日(2018年8月26日)出演したTBSラジオ「文化系トークラジオLife」では、「そのコトにプレミアム料金を払いますか? 〜課金化する社会のゆくえ」がテーマでしたが、仮にAIに課金できるようになったらどうなるのか、ということも吉川さんの議論を読んで頭をよぎりました。

自分が自律走行車にひかれないように人工知能のアルゴリズムをいじれるなら、そのアルゴリズムに課金したいという人も出てくるかもしれない(少なくても僕はしたい!)。顔認識機能を使って、自律走行車が自分を認識し事故から回避させる、なんて露骨なことではなくとも、たとえば年間100万円払えば、AIが格付けしている自分の人間としてのランクを1段階高めることができる、ということならば、交通事故に限らず、いろいろなところで利益が得られそう。それこそ、病院の待ち時間がファストパスで短縮されたり。

また、課金をしないまでも、AIがどのように人間を格付けしているかを先読みして、AIに高く評価されるように、自分の人格や行いを変えていく人が出てくるかもしれない。そうすると、吉川さんが「まえがき」に書いているとおり、人工知能技術の発展は我々の自己像や独自性にも影響を与えるだろうし、我々は何者なのだということの再考、修正を余儀なくされる時代が来るのではないかと思いました。

本書では、そのほかにも多岐にわたる議論が展開されています。吉川さんの展開している議論とは少しそれたことを書いてしまったかもしれませんが、こうやって提供されたトピックスを手がかりに、自分の想像力や思考を広げていけることができる一冊だと思いました。常に手元に置いておいておき、「人間」について考えるうえで、その時々に気になった箇所を何度も再読したいです。

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