池島

池島に未来の大絶景を見た

 軍艦島ツアーが面白かったので、もっとああいう場所はないかなあと思っていたら、池島がいいよ、と教えてもらったのである。

 池島は佐世保から高速艇で約1時間。軍艦島同様、炭鉱の島で、平成13年に閉山したが、完全な廃墟にはなっておらず今も130人が住んでいる。
 軍艦島ほど異形の風景ではないものの、巨大な発電設備の朽ちた姿や、無人の団地が立ち並ぶ光景を間近で見ることができ、トロッコでいく坑内見学ツアーもあって、廃墟好きにはなかなか楽しめるスポットになっていた。
 坑内に入ると、血管のように壁を這うケーブルや、掘削機など、期待通りの非日常な光景が展開。なかでもとくに印象に残ったのは、避難所である。私は他にも多くの炭鉱を見学してきたが、避難所を見たのは初めてだった。広さ10畳ぐらいのドーム型の部屋に緊急用の食料や無線機などが置いてある。数年前にチリの炭鉱で33人の坑夫が閉じ込められた事故でもこういう場所で救助を待ったのだろうと思うと、坑夫の日常がなまなましく頭の中に立ちあがってきた。
 炭鉱は海の下まで広範囲に拡がっていて、中に入ってから仕事現場まで1時間半かかることもあったそうだ。

 まずはエレベーターで竪坑を地中深く下り、そこから高速人車という列車に乗り換え、さらにマンベルトというものを経由して、そこからまたトロッコに乗り換えたという。マンベルトというのは、つまり人間を運ぶベルトコンベアーで、動く歩道みたいなものだが、傾斜がついているから安全のため座って乗ったらしい。男たちがベルトに座って闇の中を進んでいく光景は、ちょっと見てみたい気がする。
 それにしても地の底を1時間半とは。
 満員電車に1時間半もつらいが、暗闇を1時間半はもっとつらそうだ。

 午後からは、地上を歩く島内観光ツアーにも参加してみた。
 実際に住んでいた元坑夫の方から、そこでの暮らしぶりを聞きながら散策する。
 島には多くの団地が建っていて、大部分が蔦に覆われていたのが印象深かった。人がいなくなった世界とはこういうものだろうか。
 そしてそれらが秋には紅葉すると聞いたとき、私は胸の高鳴りを押さえることができなかった。
 それって、ものすごい絶景なのでは?
 やがていつの日か、すべての団地が植物に覆われたとき、そこには赤く色づいた四角い箱が幾重にも並ぶ世にも不思議な光景が見られるかもしれない。それは軍艦島をも超える大絶景ではないだろうか。

ソラタネ2017.6月号


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