人質殺害で窮地に陥るネタニヤフ政権 ―イスラエルで人質解放と停戦を求める大規模なデモが起こる
９月１日、イスラエルでは人質の返還と即時停戦を求める大規模なデモがイスラエル各地で行われた。前日にハマスに捉われていたイスラエル人人質６人の遺体がガザ地区・ラファの地下トンネルで見つかった。
ガザでの戦闘が始まってから来月で１年が経つが、人質の奪還には大きな進展がなかった。米国のブリンケン国務長官などは米国・民主党の党大会を前にして停戦協議は成立が近いなどと発言していたが、ガザとエジプトの境界などに軍隊を駐留させるというイスラエル側の要求にハマスが難色を示したために成立に至っていない。
米国のハリス副大統領はハマスの残虐行為を強く非難するという声明を出したが、昨年１０月７日のハマスの攻撃は突然起こったものではない。日本の上川外相などもハマスのテロを非難すると常々述べているが、平和的な交渉で要求が実現しない苛立ちがパレスチナ側には強くある。国際法に違反するイスラエルの占領や占領地での入植地拡大を継続しているが、米国などごくわずかな国を除く国際社会の非難があるにもかかわらずイスラエルには意に介する様子がまるで見られない。イスラエルによる行政拘禁は続き、数千人とも言われるパレスチナ人たちは投石、抗議デモなど些細な理由で長期の拘束を余儀なくされている。しかもネタニヤフ政権が２２年末に成立して以来、その極右閣僚はたびたびエルサレムのイスラムの聖地ハラム・アッシャリーフを訪問し、そこにユダヤ教の神殿を再建すると口にしている。９３年のオスロ合意で認められたパレスチナ国家成立も、ネタニヤフ首相は断固容認しない姿勢を見せている。こうしたイスラエルの不当な姿勢を米国は止めることがないばかりか大量の武器を供与するなど、イスラエルの強硬な姿勢を支えている。
人質６人の殺害についてイスラエルのネタニヤフ首相は当然のことのように、これをハマスの犯行だとしている。ガザの戦闘における混乱を考えればハマス、イスラエル軍、どちらが殺害したかは判断がつかないだろう。イスラエルの発表通りハマスがつくったトンネルで死亡していたとすれば、トンネル内に入ったイスラエル軍兵士も恐怖のあまり誰彼構わず発砲することは十分考えられる。
ハマス側は人質の６人はイスラエル軍の空爆によって死亡したと主張しているが、イスラエル軍による連日の無差別な空爆は人質の安全を優先して行われているとは思えない。６人の遺体が発見されるまで、イスラエルは残った人質は１０７人としていたが、ハマスは数十人の人質がイスラエルの空爆によって亡くなったと主張している。昨日までに４万７００人のガザ住民が死亡した。国際司法裁判所はガザでのイスラエル軍の攻撃を「虐殺」と事実上認定している。
ネタニヤフ首相は９月１日、６人の人質の死亡についてイスラエル側の責任を否定し、イスラエル軍は６人の殺害に責任がある者たちを捉えるまで間断なく戦闘を続けるという声明を出し、ハマスが交渉に臨まないこと、人質解放を妨害し、イスラエルの安全を損なっていることを強調した。
人質の殺害を受けてガラント国防相は、エジプト・ガザ境界におけるイスラエル軍の駐留などの停戦要件を放棄するように提案したが、イスラエルの極右閣僚のスモトリッチ財務相は、イスラエル側が要求を引き下げることはあり得ないと否定した。スモトリッチ財務相はハマスに打撃を与え、人質が生還するまで戦闘を続けると述べた。米国、カタール、エジプトは停戦交渉の仲介を行ってきたが、イスラエル・ハマス双方が妥協することなく、戦闘は継続している。
米国のブリンケン国務長官は、２４年８月中旬、ガザ停戦交渉ではハマスが障害だと語ったが、ネタニヤフ首相がイスラエル軍によるフィラデルフィ回廊とネトザリーム回廊のコントロールを主張したために暗礁に乗り上げた。フィラデルフィ回廊は、幅１００メートルの１４キロに及ぶエジプトとイスラエルの間にある緩衝地帯で、１９７９年と２００５年のイスラエルとエジプトの交渉によってでき上がった。また、ネトザリーム回廊は６キロに及び、北部ガザと南部ガザを分かつもので、ガザを分断することでイスラエルによる支配がより容易になる。ネタニヤフ首相は、これに加えてラファ検問所におけるイスラエル軍の駐留を訴えている。イスラエル軍が検問所を支配すれば、ガザへの物資の輸送が継続して滞る可能性がある。
表紙の画像はテルアビブで１日に行われた抗議デモに参加した人々/Florion Goga/Reuters
https://www.cnn.co.jp/world/35223410.html
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