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【連載】レコードのある生活を始めてみる③

初めてのレコード体験に感動を覚えた僕とバディ。しかしながら、手元には未だQUEENの「ボヘミアン・ラプソディ(シングル盤)」しかありません。A面でボヘミアン・ラプソディ、B面で「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー」。今のところこの2曲しかレコードで楽しむことができません。

我々が今、向かうべき場所はひとつ。
そう、「レコードショップ」です!

早速Google mapで「レコードショップ」と検索すると、中野駅周辺に何店舗も。それもお店の詳細を見てみるとどれも見下ろすような棚にみっちりとレコードが敷き詰められているではありませんか!…かっこいい…。

我々はその日の夕方17時半に家を飛び出し、颯爽と自転車をこいで中野駅方面へと向かいました。あんなに早く自転車をこいだのは初めてだったかもしれません。止まない興奮、素敵なレコードに出会いたい。その一心で、まるでカブトムシを山に捕まえに行くかのごとく、我々は走りました。(今月で31歳になりました、こんばんは。)

前回の投稿でも書いたように、80年代以前はレコードで販売することを前提に収録された作品。聴きたいレコードは山ほどありましたが、絶対に手にしたいレコードが、僕には1枚ありました。

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ビル・エヴァンスの『ポートレート・イン・ジャズ』(1959)。

時は遡り11年前。当時大学2年だった僕は、少し盆が過ぎた頃の8月下旬に宮崎から実家の函館へと帰りました。朝、キッチンで珈琲を飲みながらのんびりしていると出勤前、シャワーを浴び終えた父が「今日昼過ぎ、ビール飲みに行くかぁ」と声を掛けてきました。15時くらいに家から歩いて、五稜郭のミスタードーナッツで父と待ち合わせ、ビールを飲みに向かいます。飲み屋街が多い「本町」に目的のお店はありました。

外にベルギーの国旗が掲揚された、落ち着いた店構えの「Zin GARO」というお店。昼過ぎでしたが、ドアを開けると控えめな照明の空間に広々としたカウンターと革張りの一人がけの椅子が等間隔に並びます。父の職場も近いことから、マスターと父はどうやら知り合いのようで、スムーズにビールを注文します。

僕たちの目の前にどすん、と置かれたのは生ビールではなく、まるでワイングラスのような深々としたグラスと、ワインのようなボトルでした。

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ベルギーのリンデマンス・クリーク。今は250mlの瓶しか販売していないようですが、当時目の前に置かれたのは750mlだったと記憶しています。ブラックチェリーを漬け込んだベルギーのフルーツビール。真紅の色と、満開の桜を思わせるような華やかな香りが注がれた瞬間、いっぱいに広がります。

ビールとは思えない香りは、学生生活の中で、淡麗生ばかり飲んでいた僕には衝撃でした。衝撃のベルギービールとの出会いです。

ビールをゆったりと心地よく飲む中で、カウンター奥に飾られているレコードジャケットのうちの1枚を指差して父は言いました。

「ポートレート・イン・ジャズ。あれは名盤だから、絶対聴いたほうがいいぞ」
と。

実家への帰省を終えて、僕は宮崎市内のショッピングモールにあるタワレコへすぐに向かいました。もちろん、ポートレート・イン・ジャズを手にするために。

それから僕は、一気にジャズにハマることになります。ジャズを本当に聴く人からしたら、大したことないとは思いますが、ビル・エヴァンスをきっかけに、オスカー・ピーターソン、キース・ジャレット、チャリー・パーカー、マイルス・デイヴィス、チェット・ベイカー、パット・メセニー、ジム・ホール…。

夜にゆったりと飲んでいた淡麗生も気付けばウィスキーもしくはワインに変わり、一人暮らしの部屋にはひたすら空き瓶が並んでいきました。空けたワインとかウィスキーのボトルを飾ったりしませんか?先日この話を誰かにしたら「しない」と言われました。そうですか…。

色々聴いてみたつもりですが、やはりビル・エヴァンスが落ち着くのです。ピアノジャズの中でも、エヴァンスはなんだか違う。プレイがどうの…と表現ができませんが、とにかく落ち着きます。

QUEENのボヘミアン・ラプソディの音質に感動してしまった後、すぐにポートレート・イン・ジャズを聴きたい。そう思った先にあるレコードショップ巡り。

果たしてポートレート・イン・ジャズは掘り出せるのか。

次回へ続く。

※ポートレート・イン・ジャズとの出会いの場所となった"Zin GARO"は現在は閉店しているようです。場所は変われど、また父とビル・エヴァンスを聴きながらリンデマンスを飲みたいです。


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