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本を読んでもひとり

 夫婦そろって、本が好きだ。それぞれの蔵書をあわせるといったいどれくらいになるのだろう。数年に一回は、大量の本をブックオフに売りに行く。そしてまた本を買う。最近は、お互いすっかり目が遠くなって、長時間集中して本を読むということが難しくなった。本離れ絶賛進行中である。

 これだけ本があれば夫婦で本の話なんかして盛り上がるでしょうね。退屈しないでしょうね。まあ普通そんなふうに思うだろう。ところが、ここに驚くべき事実が。なんと、これだけ本があるのに、夫婦ふたりがともに読んでいる本というのはほとんどないのだ。私の本は私の本、あなたの本はあなた本、なのだ。盛り上がる話など、金輪際、ない。

 趣味の違いというのは恐ろしいもので、お互いの本には決して興味を示さない。手にとって見ることすらしない。私は、純文学やエッセイなどわりとほわんとしたものを好んで読む。ストーリーらしいストーリーのない、なにかよくわからない話が好物だ。村上春樹、椎名誠、太宰治、川上弘美、伊坂幸太郎、谷川俊太郎などなど。あと旅エッセイ、サッカー本。奥様は、とにかく事件が起こらないと気が済まない。殺人事件や爆破事件、そしてスリルとサスペンス。

 池井戸潤とか近藤史恵、宮部みゆきなんかが、わずかかする。唯一、共有できる本である。だから映画もいっしょに見るということはほとんどない。いっしょにシネコンに行って、それぞれ違う映画を見るなんてこともけっこうある。

 それでもまあ、本という共通のカテゴリーを趣味としているというのは、不思議な連帯感がある。感動は共有できないけど、空気は共有できる。ちぐはぐな盛り上がりのない話でも、本好きの空気感はじわっと伝わる。本を読んでもひとり、だけど、ひとりじゃない。不思議なことに。



 


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