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日々のこと 0613/親切なクムジャさん

ここ最近、まったく仕事する気が起きない。
私にしては珍しい。普段は元気が出ない時も、仕事してればどうにか復帰していくタイプ。
仕事上のトラブルの対処は、例えば人間関係とかのダメージとは全く別の回路が働く。外科と精神内科みたいな違い。仕事の問題は具体的な解決法を考えて対応すればいい。大変だけど、凹まない。それが今回、そのモチベーションがまったく上がらない。集中力ゼロ状態が続いている。

晴れ晴れする映画でも見たいなー、と手持ちの未見映画から手にしたのが、だいぶ前に中古で買ったコレ。プレミアム・エディション2枚組だよ。

『親切なクムジャさん』(2005年・韓国)。

怖そうで長らく避けていたパク・チャヌク監督、実は「復讐三部作」は初見。復讐モノとは聞きつつも、この可愛いタイトルとビジュアル。つい「犬のおまわりさん」「やぎさんゆうびん」みたいなホンワカイメージを持っていた。そんなわけない衝撃作だった。また間違えちゃった。よく間違えます。

ものすごーくざっくりいうと「クムジャさんという美しい女性が、13年かけて復讐を企む話」。復讐を叶えるため、親切すぎるふるまいで協力者を増やしていく。てか、この説明の200倍の衝撃が待ってるので、ぜひ映画を見てください。チャヌク監督独特の美学に彩られた映像美や色彩、音楽も素晴らしい。

少し前に見た井口昇監督の『ゴーストスクワッド』という復讐映画を思い出す。酷い殺され方をした女性たちが幽霊となって犯人を探す物語で、これとは全く違う落とし前のつけ方が用意されていた。
復讐に燃える彼女たちは、最終的に相手を殺すよりも生かすことで罪を贖わせる道を選ぶのだ。私は大号泣した。
『クムジャさん』はまったく別の道を辿るけれど、これも復讐というより贖罪の話ではないかと思う。

先日、東海道新幹線の中で起きた殺傷事件の報道を見た。6月は池田小の事件、秋葉原事件など、なぜか無差別殺傷事件が多い。「日本には死刑制度があり、死を望む殺人犯が存在する」という話を、先日知人としたばかりだった。
死刑制度の是非をここで語る気はないが、私は罪を背負って生きることの方が大変だと思っている。私には身内を殺された経験がなく、軽々しく遺族感情を想像することができない。『クムジャさん』での描写は強烈で、そんなことも考えた。

そんな重いテーマも含むこの映画。メイキングやスタッフインタビュー特典映像がまたスゴかった。プレミアム・エディションゆえである。

撮影、衣装、美術、CG担当者が語る裏話も、すごく面白かった。
関わった人たちの半端ないこだわり。ザザザと軽く紹介するので、読み飛ばしてください。
印象的に使われる「赤」の意味合いと、補色関係にある「緑」の使い方。男性的でも女性的でもある赤はクムジャさん、穏やかであり冷たくもある緑で復讐相手のペク先生を表したという。ケーキ屋のトイレは和解を意味するナチュラルな色合い。囚人服の色、模範囚になってからの色、復讐が始まる前と後のコートの色や素材の変化と意味。
CGだと勝手に思っていた「ペク犬」の制作には一ヵ月をかけ、水墨画のような背景の方がCGだったことに驚く。足の裏に止まる蚊は、国や地域での蚊の種類の違いを考えて演出され、血を吸った腹の赤の濃度へもこだわる。
切り落とされた手首のダミーにはスタッフが監督にも知らせず機械を仕込み、ナイフを握った指が動く仕掛け。「試写を見たら動く様子も使われてました」と笑うスタッフ。使われるかどうかも分からずやったわけだ。いずれもほんの数秒のシーンである。

などなど、微に入り細に入ったスタッフの発言が果てしなく続く。
「これぞ仕事」だと思った。
仕事行き詰まりど真ん中の私には、すごく面白かったんです。

おまけ
エグい暴力シーンが苦手なのだが、バイオレンス描写の激しい韓国映画はなぜか大丈夫。チャヌク監督のインタビューにとても納得した言葉があったので、紹介して終わります。
「暴力の原則は、楽しめないように描くこと。美しいだけ、楽しいだけのものとして描かない。暴力を振るう方も振るわれる方も、映画を見る方も苦痛を感じるように撮ることが原則」


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