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日々のこと 0304『欲望の翼』

ウォン・カーウァイの『欲望の翼』を見に行った。

私の周りにはカーウァイ好きが多い。それも溺愛レベルの。でも、実は私はそれほど思い入れがない。キムタクが出てるから見た『2046』は、ぐっすり寝てしまった。

昔描いた絵本を、りりこさんという知人に見せたことがある。彼女は「ロジウラのマタハリ 春光乍洩」というお店をやっている、カーウァイ溺愛者の一人。そんな彼女が私の絵本を見て「ウォン・カーウァイみたいだね」と言った。
自分の大好きなものに似てるだなんて、嬉しかった。それを別のカーウァイ溺愛者、AV監督のカンパニー松尾さんに話したら「確かに似てる。『欲望の翼』は、たった一度だけあったいいことをずっと覚えている、という切ない話だから」と言われた。
一笑に付されると思っていた私はビックリ仰天し、りりこさんに伝えた。すると彼女は感激の面持ちでボロボロ涙を流し始め、またまたビックリ仰天した。「欲望の翼、すぐ見ます!」と思った。
で、改めてDVDで見たら、そんなに面白くなかった。

台詞はキザだし、画は暗いし、ストーリーは単純。雰囲気映画だなーと思った。でも名匠の傑作を私のアホな絵本に似ているなんて、しかも溺愛してる人々が言うなんて、畏れ多く光栄で、ひたすら恐縮の気分。
だけど私はカーウァイよりも、彼の作品に影響を受けて作られたものの方が好きみたい。例えば『ムーンライト』や『YOGA』。100倍好きだ。

そんな『欲望の翼』が13年ぶりにデジタル・リマスター版で公開されるというので、このたび劇場で見たわけです(前置きが長い)。
これが、素晴らしかったのですよ!

湿った空気と切なさと美しさと永遠のような一瞬を、濃密にぎゅっと閉じ込めた映画。冒頭で、レスリー・チャンが身体をカタカタしてコーラの栓を開けるとこから「ギャーッ!」と思いましたよね。
母親のイヤリングを盗んだカリーナ・ラウへの、レスリーのイヤリングの渡し方ときたら。「ちょっと奥さん!今の見ました!?」って感じ。すぐキレるし暴力的だし自分勝手だし、一緒にいたら絶対不幸になるタイプの男。でも格好良さがとにかく爆発している。警報鳴りっぱなし。
階段で踊るカリーナ、ひと目で恋に落ちるジャッキー・チュン。あんな踊り、そりゃ落ちるよ! もうね、人物全員すぐ恋に落ちるんですが、当然だと思う。全員が魔法。誰もが嵐。すべての思いは一方通行。歩き去る背中のスローモーション、気を失いますよ。衣装も美術も最高です。さりげなく置かれるファイヤーキングのコーヒーカップとか、見ましたか奥さーん!

挙げるとキリがないのですが、美しい映像のすべてが疾走している。湿った空気に絡まるラテン音楽の明るさ。特に泣けたのは、DVDではめんどくさい女にしか見えなかったカリーナの恋とどうしようもなさです。
DVDとスクリーンは大違い。暗闇の中で夢見るような映画でした。
でも多くの人がこれをDVDで見て気に入ったわけで、自分の理解力のなさを思い知りました。知ってたけどね…。

私は映画情報誌の制作をしているのですが、『欲望~』の宣伝の人たちに劇場で会ったのも、テンション上がりました。普通に映画を見に来てた。そんなことって珍しい。「やっぱり映画館で見たくて!」と嬉しそうでした。みんな大好きな映画なんだな。
みんなの大切にしている映画の魅力が分かって、私はとても嬉しかった。
とりあえず「ムーンライトやYOGAの方が100倍好き」は、言い過ぎました。大好きなもののリスペクト元で発熱体、その最高さを知れて、本当に良かったです。


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