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日々のこと 0819

先日、学生の頃に住んでいた街に、久しぶりに行った。
駅も周辺も大きく変わり、どっちに歩けばいいか分からない街になっていた。
アルバイトしていた店が周年記念日を迎え、歴代バイト連中の集まりがあったから。私も新幹線に乗って、顔を出してきた。
5年とか10年とかの節目に誰からともなく呼びかけられ、バイト経験者たちが集まる。一番古い人は開店当時のバイト、一番新しい人は現役バイト。おじさんから若者まで、計30人ほどのバイト経験者のうち20人以上が全国からやって来た。
もちろん一緒に仕事をしたことがない時代の人もいるが、なんとなく語り継がれるので全員が顔や名前を知っている。「ここで働いていた」ということだけが共通点。
人にこの話をすると「仲がいい店だね!」と驚かれる。特に店をやっている人は「幸せな店だな~」と口をそろえる。

コーヒーやお酒とともにアナログレコードをかけて音楽を聞かせる店で、時々ライブもやる小っちゃな店。一日の営業はマスターと、バイトが一人。日曜日はマスターが休み、バイトふたりで店を開ける。そのシステムは現在も変わらないらしい。経営は、多分ギリギリ。

仕事が深夜に及ぶので「バイトは男のみ」というマスターの主義だった。二十歳そこそこの私はそれを押し切り、懇願して入れてもらった。カウンターの外側からずっと憧れていた店。私はそこで3年働いた。私の後に勤めた女性はいない。
マスターは現在60代、今も現役。わりとだらしないが器がデカく、人望がある人だった。私たちは、シフトに入らない日も、客としてほぼ毎日その店に通っていた。そんな規則はもちろんなくて、バイトたちが勝手にそうしていた。
みんなそれぞれの理由で、その店がとても好きだった。

卒業後、自分の店を持った人も何人かいる。その店の名前を冠した会社を起こした人もいる。その店に、その空気に、私たちは確実に何らかの影響を受けてその後の人生を過ごしている。
誰の人生にもあるという「モテ期」、私の最大はこの時代かもしれない。多分ここでは、少しはモテた。振った人も、好きだった人も、セックスした人もいた。久々の同窓会のような時間はお酒も入り、「あなたのことが好きだったけど、俺のこと眼中になかったっしょ?」みたいな話もいろいろ出てめんどくさかった。でも楽しかった。
誰より先に酔いつぶれて寝てしまったのはマスターで、みんなで飲んで食べて話をした。世の多くの同窓会と同様に、髪は薄くなり、身体はたるみ、どこからどう見ても完全体のオジさんたちが「ちっとも変わらねーな」と言い合う姿はかわいい。人にはそんな時間も必要だと思う。

みんなあの頃と、なんも変わってないと思う。うまく行ってる人もいるし、行ってない人もいる。お金持ちになった人も、働いてない人もいる。それぞれに荷物は増え、いろんな事情を抱え、でも話すと変わってない。簡単には変われないんだなと思う。嬉しくて、悲しくもある。
だけど、みんな、どっかは変わった。どこが変わったのか分からないけど変わった。それぞれの戦場を戦っている人たちが一瞬だけ集まり、笑って、喋って、はしゃいで、そしてまた明日からの持ち場に散っていく。
店がなくなるのが先か、人が倒れるのが先か。口に出さないけど、多分全員そう思っている。
次に集まるのはいつか分からない。すでにいつもの戦いの日常は始まっている。
でもさ、とりあえず、元気でいようね。そしてまたいつか会いましょう。

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