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日々のこと 0316 岸政彦の本を鞄に入れて淀川沿いを歩いた話(前編)

大阪で、時間があいた。
ホテルチェックアウトの支度をしつつ、持ってきてた岸政彦さんの本「図書室」の表紙がふと目に入った。
淀川にいってみようかと思った。

岸さんの本には大阪の地名が山ほど出てくる。大阪は何度も来ているが、目的地のみになりがち。土地勘がない上、神がかり的な方向音痴の私には、地名はうまく線にならず、点でしかない。大阪で読み返せばさらに楽しい気がして、「図書室」をなんとなく鞄に入れてきていた。

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せっかくだから表紙の場所に行こうかと思ったが、コレがどこだか分かるわけがない。大阪人にはパッと分かる有名スポットなんだろか。そういえば以前ツイッターで、読者がこの表紙を実景にピタリと合わせて撮った画像を見たことがある。
検索しても場所はよく分からなかったが、「OSAKA KASEIの看板が映ってる」みたいな呟きを見かけた。「おおさかかせい」で調べると「大阪化成株式会社」というのが出てきた。西のはずれ、ほぼ大阪湾に近い。めっちゃ遠そうで、それはあきらめる。
とりあえず今いる最寄り駅から淀川に行こう。「本町」から地下鉄で、「西中島南方」で降りれば、淀川みたい。

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コロナの影響か、大阪も人が少ない。電車も空いていた。
御堂筋線は途中で外に出る瞬間が好き。車と電車が同じ目線の高さになる数秒間が見逃せない。窓に張り付くが、車の人はあまりこっちを見てくれなかった。

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駅を出ても川の気配がまったくないが、川を目指して歩く。いいお天気。風が強い。
川べりで本を読めたら、とか思っていたがかなり寒く、本を読むどころじゃなさそう。数日前は全国的に暖かくて桜開花のニュースも見た。一度薄くしたコートを再び厚くするのは難しい。

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歩けども歩けども、川がまったく見えてこない。笑。
淀川には安全なシジミがいるという看板があった。映画『東京干潟』の、シジミ獲りのホームレスおじいさんを思い出しながら歩く。あれはいい映画だった。ここのシジミも安全みたいよ。

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オオイヌノフグリやカラスノエンドウが、小さな花をつけていた。豆はまだない。私の育った名古屋では、カラスノエンドウを「ピーピー豆」と呼ぶ。子どもの頃よく遊んだ。パンパンに膨らんだものを選び、さやの細い筋を外し、小さな小さな豆たちを取り出して笛にする。いい音を鳴らすには、いろいろな技があった。私の母はこの草をシービービーと呼んでいた。確かにこの笛はそんな音が鳴る。大阪ではなんと呼ぶんだろう。

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ようやく川が見えた。嬉しくて、近寄ってみる。ブルーシートの小屋が並ぶ場所を抜けて川に近づく。ひとけはなく静かだが、脇に花壇がこさえてあった。芽を出しているのは多分チューリップ。誰が植えてるんだろう。きちんと手入れされている。

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川沿いをゆっくり歩くなんて、あんまりしたことがない。どれくらいぶりかも思い出せない。
私は川や海のそばに住んだことが一度もなく、いつでも水辺に行ける環境にちょっと憧れた時期があった。
河川敷というと一番に思い出すのは「金八先生」だ。散歩したり通学したり、集まって遊んだり、決闘したり、1人でぼーっと座り込んだりできる場所、それが河原。そんな場所が生活圏にあるのは羨ましかった。
川の近くに住んでいる仕事仲間のAさんは台風が来るたびに心配している。住むには大変なこともあるようだと今は知っている。でも、いいよね、川。

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川は、時々目の前に現れるものの、座って眺める感じにはなかなかならない。とにかくここは広い。広大。グランドを通り過ぎたり橋をくぐったり芝生を渡ったり、下ったり上がったり、1時間半くらい歩いただろうか。
ふと後ろを振り返って「あれ?」と思った。遠くに見える建物の看板、白地に緑色の文字。あれこそが大阪化成じゃない??「図書室」の表紙にあるやつじゃない?
 急いで本を取り出す。

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「あぶない」の上。背表紙のちょっと右にあるやつ。
よく見たら、連なる半円の鉄橋もさっきから見えてるじゃん。
そっか、ここは、対岸だー!

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(後編につづく)
(後編もダラダラ歩くだけです、すいません)



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