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大剣豪大西部

(前回までのあらすじ:SMD(大量破壊刀剣)の開発計画の行方を追い、手がかりとなる『カタナ』の所有者を探すジュウゴ・シズガワとルー・レインゲイトは得られた情報に従い荒野の中の小さな町・ベロゥズを目指す。しかしベロゥズは悪漢の集団に狙われつつあった!)

 ジュウゴの手の中でガンと撃鉄が落ちる音が響き、それとともに放たれた弾丸が脳天に風穴を空ければ、

「ぐぶぅっ」

 とやや間の抜けた声とともに悪漢は荒野の地に倒れ伏して動かなくなった。

 それはルーが左手の逆手に構えたダガーナイフで別の悪漢の喉笛を一突きにして殺したのとほぼ同じであった。こちらの相手はうめき声をあげる余裕すらなく絶命した。

「何人殺しました?」

「知らないな。数える必要性を感じなかった」

 ルーの問いにジュウゴは簡潔に答え。二人は背を合わせて息を吐いた。

「……」

「……」

 吐ききった息とともに沈黙。一瞬の静寂。今はそよ風すら無い凪いだ荒野の空気を探り、

「どうやら今の最後のようですね」

「そのようだ」

 もはや敵の気配が無いことを確認してジュウゴは拳銃を書生服の内側のホルスターに仕舞い、ルーはダガーナイフを鋭く一振りし空で血を拭った。

「……『カタナ』はあったか?」

 周囲に築かれた死体の山、その手の中にある武器――特に剣を目で確認しながらジュウゴは問う。

「いいえ。私のほうでは確認できませんでした」

 ルーは首を振る。

「だ、ろうな。俺が相手にしたのはろくに『剣境』も使えない三下ばかり。おまえもその腰のモノを抜いてないということはその程度の相手しかいなかったということか」

 ルーの腰、軍服のスカートには細い銀の鎖で下げられた剣が一振りある。鞘と鍔の間を、これまたやはり銀の鎖で封印されたその剣が引き抜かれた様子は無い。彼女はダガーナイフ一つで悪漢の群れを皆殺せしめたのだ。その腕前は伊達ではない。

「その割に貴方のほうは少し手間取っていたようですけれど?」

 意地悪く目を細め、つつくような口調で言うルー。事実、殺した敵の数では彼女のほうが上だ。

「おまえのようにはいかないものだ」

 眉間に皺を寄せ、渋々とそう認める。ジュウゴの運動能力や戦いの技量はルーにけして劣るものではないが、それでも補いがたい差というものは存在する。

「拳銃とはまったく不便な武器ですね」

 武器の差。それはどんなに技量に優れようとも覆せない差である。

 懐中。ズシリと重い鉄の塊の存在を感じながらジュウゴは繰り返す。

「……おまえのようにはいかないんだ」

 何が、とは口には出さない。彼女と同じく剣を――刃を使えれば、どれほど楽に戦えるものか。

 ジュウゴとてそう思う。しかしそれはできない。できないのだ。

「しかしこれで3つ目。武装盗賊の集合地を襲いましたが未だに手がかりはゼロ。……情報は本当にあてになるのですか?」

 いぶかしむルーの目に、ううむ、とジュウゴは唸り懐から地図を取り出す。地図上には3つバツ印がつけられており、荒野の武装盗賊の集合場所として目されていた地点だ。そのうちの一つは今まさにジュウゴとルーのいる場所である。

「情報を疑ったところで他にあてがあるわけでもなし。今はマリオンの話に乗るしかないだろう」

「3つを当たって駄目であれば、あとは……ベロゥズですか」

「ああ。4つ目、ベロゥズを襲うと計画している武装盗賊がいるという話だな。盗賊団の規模としてはこれが一番大きいだろうし、必然『カタナ』の所有者がいる確率も高いな」

「……結局それが本命なのであれば、上手いこと荒野の掃除に利用された気がしないでもありませんね」

「さてな。あの『結社』の奴らがド田舎の野盗退治をやろうなどというボランティア精神に富んでいるとも思えんが」

 いずれにせよ手がかりが無いのであれば長居は無用だ。ジュウゴとルーは手早く荷物をまとめて準備をする。何処からかあまり褒められたものではない手段を使い、かき集めたものだろう武装盗賊の物資もあたりに散乱しているが、それには手を出さない。水や食糧に窮している状況ならば緊急避難として最低限のものを持ち出すこともあるが、金品に手をつけることはまったくありえない。それは何故かと問われるのであれば、二人は口を揃えて「「気位の問題だ(です)」」と言うだろう。

 あさましくもスカベンジャー(死肉漁り)を行えば、人間の品位などいうものは容易く獣のそれに落ちる。何の躊躇いもなく盗賊を皆殺しにしておいて何を今さら、と言われるだろうが。だが逆に殺人をいとわぬのであればなおのこと、最低限守るべきものもある。

(だからそんな目で見るなよ)

 荷物を抱えたジュウゴの背中を、死体の眼まなこは見ていた。否、それは錯覚だ。絶命したことで弛緩し開いた瞳孔がたまたまジュウゴに焦点を合わせただけのこと。しかしそれでもジュウゴは死体からの恨むような意思を感じずにはいられなかった。

(俺とて落ち武者のようなもの。今日を生きながらえたとて、どのみち長生きできるわけでもなし。恨み言ならあの世でたっぷり聞いてやる)

 そう心中で言い捨てて、もはやそれ以上考えないこととして切り捨てる。

 向かう先は一台のモノバイク(モノホイール・バイク)。ジュウゴの背丈より巨大な直径のタイヤの中にハンドルとシートとエンジンが納まったオーソドックスなモノバイクだ。

「では運転はお願いしますね」

 そう言ってさっさと後部シートに座り込んだのはルーだ。運転の煩雑さを感じたもののジュウゴは文句の声は出さずに運転席に座る。戦いの前の運転はルーが、戦いの後の運転はジュウゴが受け持つのが二人で取り決めたルールである。

 シートに座り、グッとハンドルを握りこめばルーが背中から抱きつくようにする。モノバイクはその構造上、人が乗れる空間に限りがあるからだ。

 背中に密着する若く美しい女の柔らかな肢体の感触。そしてタイヤに巻き込まないよう結って前に垂らした彼女の美しい銀髪の匂いが鼻腔をくすぐり、にわかに青年の血潮に刺激を与えるが、

 じゃらり。

 腰に差した彼女の剣が鎖を鳴らせば、その気持ちもすぐに醒める。後ろに乗っているのはただの女ではない。剣士だ。それも尋常ならざる実力をもった剣士だ。

 そしてそんな剣士はこの大陸には掃いて捨てるほどもいる。

『剣士たちの楽土だ』と人は言う。

『刃によって拓かれたフロンティアだ』とも人は言う。

『地獄だ』と単に言い捨てる者も居る。

 ガン! とエンジンを蹴りこめば超燃焼性成形コークスが猛烈な勢いで燃焼し、タンク内のエーテル水を急激に沸騰させる。高まった水蒸気圧力はピストンを動かし……エンジンは本格的に稼働を開始した。

 眼前、タイヤの内側から荒野を睨み。ジュウゴはアクセルを開いた。しがみつくルーの腕力が胸を押さえ、加速の圧力を全身で感じる。風が流れ、砂煙をあげてモノバイクは走り出す。

 ……ここは刃を持つ者だけが他者を支配する新大陸。狂乱じみた勢いで西へ、西へと人の手による開拓が進みいく夜明けの時代。この地を、あるいはこう呼ぶ者が一番多いのかもしれない。

 即ち――『大剣豪大西部』と!

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ミヤモト・クマゾー

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