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”問い”との出合い vol.2

1.質問されるのが怖い

いまでは「問い」を生業にしている私ですが、実は質問されることが大の苦手でした。

私は、その後グロービスでも研修事業に携わり、それらの経験を活かし、31歳の時に研修トレーナーとして独立しました。

人前に立つことに苦手意識がなく、どちらかと言えば目立ちたがりのタイプだった私は、研修トレーナーという仕事が好きでした。しかし、受講生から質問されることは怖くて怖くて仕方なかったのです。

研修トレーナーたる者は、質問には切れ味良く、納得感のある解説をせねばならないという意識が強くあったからです。
「答えを持っていなければならない」という呪縛です。

「知らないことを聞かれたらどうしよう??」「上手く答えられなかったら、その後の講義がやり難くなってしまう…」
そんな不安を常に抱えていたため、できるだけ質問されないようにタイムマネジメントを工夫していたくらいです。。

更に過去を振り返れば、自分が上司として初めてチームを持った時にも同じような恐怖を感じていました。

当時の私は、上司たる者は統率型のリーダーとしてチームを引っ張っていくものだと思っていて、そんな私にとって、メンバーからの質問に答えられないということはあってはならないことだったのです。

しかし、優秀な人材ほど良い問いを持っています。
私が回答できる質問をする部下は良いメンバー。一方、私が回答できないようなややこしい質問をする部下はダメなメンバーと選別し、優秀な人材を遠ざけてしまったこともありました。

また、私が思う統率型のリーダーは、チームを引っ張るだけでなく、引っ張った上でゴールへ導かなければならない存在であり、そのゴールは自分自身が持っている”答え”でもありました。自分が思い描いたゴール=答えから外れた想定外の質問に対しても恐怖感を覚えていたのです。いわば”統率型リーダーシップ”の呪縛です。

2.笛吹けども踊らず

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独立からしばらくして私は、研修トレーナーという生業からプロジェクトのファシリテーターへと徐々に活動の軸足を移していきました。

1日~2日間などスポットで終わってしまうことの多い研修案件よりも、半年~1年かけて関わっていくプロジェクト案件の方が楽しいと感じたからです。

しかし、「答えを持っていなければ」という呪縛と、統率型リーダーシップの呪縛は、ファシリテーターにとって大きな障壁となりました。

私がお手伝いするプロジェクトは、組織の風土改革や職場の活性化をテーマにしたものが多く、各職場から選出された方々でプロジェクトチームをつくります。

プロジェクトmtgで自社の課題や解決策を議論して行動計画をたて、次のプロジェクトmtgまでにその行動計画を実行する。この一連の活動を支援していくのがファシリテーターである私の役割です。

しかし実際には、私があらかじめ理想的な着地点を描き、ホワイトボードの前に立ちながら、シナリオ通りに進むようチームを誘導していました。
表面的に議論は盛り上がっているように見えるのですが、そこで決められた行動計画が職場に戻って実行されることはなく、外から雇われた私だけが笛を吹きながら旗をふるものの、誰もついてきてくれていない状態だったのです。

リーダーとして、理想の答えを用意し、そこへ導こうとしているのに、誰もついてきてくれない。統率型リーダーとして、ゴールに導けないのはあってはならないこと。この呪縛にも長く苦しみました。

ただ、どうしてよいか分からないまま、契約が徐々に終わっていく、そんな日々が続きました。

3.改めて出合った「問い」の可能性

「笛吹けど踊らず」状態から脱出できたきっかがまさに「問い」でした。

案件も減りファシリテーターとしての力量に限界を感じていた私は、さまざまな学びの場に突破口を探しました。


ファシリテーションはもちろん、コーチング、アクションラーニング、ワークショップ、Tグループ、マインドフルネス・・・、といった類の講座をむさぼるように受講しました。

その中で、改めて「問い」のパワーに気付かされたのです。

特に大きなインパクトがあったのは、日本アクションラーニング協会が展開している「質問会議R」です。

質問会議とは、そのネーミングが表すように「質問縛り」というルールを設け、会議ではありながらも「意見やアドバイスは言ってはならない」という特徴があります。

このルールは、本来はプロジェクトメンバーのためのものですが、最もその効果を享受したのは、ファシリテーターである私でした。

質問縛りだと思い通りに誘導できないので、私にとってとても居心地の悪いルールです。
しかし、返ってそれが強力なギプスとなったのです。

講座でライセンスを取得するには、質問会議を実践演習する必要があり、それまで私が笛吹き状態だった進行中のプロジェクトで数回実施しました。
すると不思議なことに、それまで一向に実行されなかった行動計画が、職場で実行されるようになったのです。

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質問会議中は沈黙の時間もあり、議論は必ずしも盛り上がっているように見えず、当初私が描いたシナリオとは全く異なる行動計画なのに、2週間後に再度集まると、行動計画がしっかりと実行されているのです。しかも職場で変化も生まれていました。

これには驚きました。
きっと問いに答える中で自分たちが出した行動計画だからこそ、実行に移させたのだと思いました。

そしてこの時、これまでさまざまな講座で学んだことの中で浮かんだのが、「本人の中に答えがある」という、コーチングにおいて大前提となっているスタンスです。

研修トレーナーが行うのは”ティーチング”で、トレーナー自身が答えを持ち、それを文字通り受講生に”教え”ます。
しかしファシリテーターが行うのは”コーチング”のような関わりの中で、プロジェクトメンバー(クライアント)自身が持っている答えを自ら気づいていくような場を作るのが役割です。

私がとらわれていた統率型リーダーは、ティーチングのスタンスでした。

私はこの決定的な違いに気づかず、統率型リーダーとしてファシリテーションを行なっていたのです。
これではうまくいくわけはありません。

コーチングのスタンスをとるようになってから、私のファシリテーションは大きく変化しました。皆を導く必要はもうありません。統率型リーダーの呪縛から解き放たれた瞬間です。
それと同時に、「問われることの恐怖」からも徐々に解放されていくことになりました。

このプロジェクトでの効果を目の当たりにしたことで、「問い」に大きな可能性をあらためて感じました。
そして「問い」を事業の中心テーマにしていこう!そう決心したきっかけにもなったのです。

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