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#トリノよいとこ一度はおいで〜食いしん坊な王様達が残した美味しいもの その1 「グリッシーニ」

あの細長くポリポリとおいしいアレ。生ハムにグルグル巻きつけて食べたりしてもすごく美味しいアレ。イタリアンのレストランに行ったことがある人なら、それがイタリアじゃなくて日本国内でも、アレを見たことがない、食べたことがない、という人は少ないのではないか?

アレとは、そう、「グリッシーニ」。イタリアではもちろん、今や世界中のたくさんのイタリア料理店で、パンと一緒に出てくるアレだ。パンを自家製するこだわりレストランなら、オリーブオイル風味、トマト風味、イカスミ風味とか、オリーブやクルミ、ゴマなどを練りこんだもの、などなどいろんなバージョンが作られている。形もオーソドックスな直径1センチほどのものから、超極細や短くて丸っこいモノなど、いろいろだ。

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だけど、そのイタリア料理のお供の定番中の定番が、じつはトリノ生まれだということは意外と知られていない。

グリッシーニ誕生はこんなふうに

時は1666年。

ピエモンテ地方(現イタリア)とサヴォア地方(現フランス)一帯を治めていたサヴォイア公爵家は、トリノを首都と定め、暮らしておりました。そのサヴォイア家にお世継ぎ、ヴィットーリオ・アメデオ二世が生まれました。

虚弱体質で、どんな薬も受け付けなかった王子様は、いつも周りを心配させていました。特に胃腸の具合が悪く、10歳の頃には生死をさまよう大病を繰り返すようになっていました。

そんなある日、サヴォイア家の主治医はふと、自分が子供の頃のことを思い出しました。冷蔵庫のなかった時代であり、衛生観念も今のように発達していなかったせいか、体力のない子供は常に食中毒の危険と隣り合わせ。彼もいつもお腹の調子が悪く、病気がちでした。

そんな息子に母親は、水分が極端に少なく、カリカリに焼けた部分だけのパン(柔らかい部分がない)を食べさせました。なんとそのおかげで彼の体調はよくなったのです。

グリッシーニを食べて王様に

それを思い出した医師は、サヴォイア家お抱えパン職人に、パンの生地を細長く伸ばし、カリカリに焼くようにオーダーしました。水分がほとんどなく、軽く、カリカリの細長い”棒”、グリッシーニの誕生です。1679年のことでした。

グリッシーニを食べて健康を取り戻した王子様はすくすくと成長し、1713年にはサヴォイア家初の王様となり、公爵家だったご実家を王家へとランクアップさせました、メデタシメデタシ、というお話。

↓トリノの王宮。ここでグリッシーニは生まれた?

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ナポレオンもお気に入りだったグリッシーニ

その後歴代のサヴォイアの面々は、みんなグリッシーニが大好きになり、劇場でオペラを見るときもグリッシーニを齧りながら、がお気に入りだったという現代ではありえない行儀の悪い王様や、手にグリッシーニを持った肖像画を描かせたお姫様もいたほどとか。

何年間かトリノを制服していたナポレオンもグリッシーニの大ファンになり、フランスへ帰ってからも「あのトリノの細い棒=Le petits batons de Turin」が食べたいと言って、わざわざトリノから定期便で運ばせたほどったというエピソードもある。

アモーレのためならグリッシーニなんて

トリノで伝統製法のグリッシーニを作る店を取材に行ったことがある。もう20年近く前の話。生地を小分けにした後、両手で持ってぐるぐる回して伸ばしていくその製法は、どこかで見たことがあるような? と考えてみたら、中国の古式拉麺だった。

拉麺の場合は、大きな生地を両腕で引っ張っては伸ばし、折りたたみを繰り返していくと細い麺が何重にもなっていくのだけど、グリッシーニの場合はただ生地をグルングルンと回しながら細長く伸ばす。でも大の男が両腕を思い切り伸ばした長さのグリッシーニは、見栄えも味も、なかなかの迫力だった。

その店は伝統製法にこだわる店として有名だったのに、取材からしばらくして前を通りかかったら、閉店の張り紙が貼ってあった。近所の人に事情を聞いたら、なんと、店主が若い恋人と不倫をした挙句、駆け落ちしてしまったんだって。さすがアモーレの国イタリア! そんなこと(?)のために伝統の店を潰してしまうなんて、と開いた口がしばらく塞がらなかったのを覚えている。 

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超スマートなグリッシーニの食べ方

そんなグリッシーニを、トリノの人たちはこよなく愛している。全てのパン屋さん、全てのスーパーマーケットで何種類ものグリッシーニが常に売られている。娘が小さかった頃、パン屋さんへ行けば、店員さんは必ずグリッシーニを1本、娘の手に持たせてくれていた。多分、全てのパン屋さんで、全ての子供に、そうやってグリッシーニは配られていた、いるんだと思う。

もちろん子供だけでなく、大人も、食事以外でも小腹が空いたらポリポリ、
グリッシーニを食べる。生ハムを巻きつけてスプマンテと一緒に、なんておしゃれな食べ方ももちろんありだけど、ヌテッラをグリッシーニですくって、なんていうジャンクな食べ方もトリネーゼの心くすぐる食べ方の一つ。

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でも私が、トリノで、さすがイタリア人、かっこいい〜! とうっとりした
グリッシーニの食べ方(使い方)がある。それは料理の食べ終わりに、お皿の上に最後の一口が残っている時。

平らなお皿の上から、小さな料理のひとかけらをフォークに刺すのは意外と難しいくて、ナイフもあればいいんだけど、料理によってはナイフが出されていないことが意外と多い。そんな時。誰も見てないから手、使っちゃおうかな、でも行儀悪くてカッコ悪いな、と思っているような時。トリノ人は左手にグリッシーニ、右手にフォーク。そしてグリッシーニで皿の上の最後のひとかけらをフォークの腹側にのせてパク。グリッシーニもパク。

スマートだなあ、と感動し、以来、私もいつも、真似することにしている。ある時、イタリアで日本の食企業の方と食事をしていて「宮本さんの食べ方、おしゃれやわー」と言われた。私はうふふ、と鼻の穴を大きくしたのはいうまでもない。

グリッシーニを使ったこんな料理も!

というわけでトリノの家庭には常にグリッシーニがある。昼にも夜にもアペリティーヴォニも食べて、それでもまだ食べたいというので、グリッシーニを使った料理まで発明された。

それは「グリッシノーポリ」。家庭で作れるとても簡単な料理だけど、ちょっとしたコツでさらに美味しくなるというプロ伝授のレシピを、ここで公開しちゃいます。ピエモンテで17年修行し、今は和歌山県和歌山市でピエモンテ料理だけにこだわって料理を出し続ける「トラットリア イ・ボローニャ」の小林清一シェフに教えてもらったレシピ。そして私が実際に作ってみた。シェフからのコツや、作って見た時の注意点など丁寧なアドバイス付きだよ!(笑)

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