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016.はじめにことばありき/最果タヒにはなれないけど

感情の記憶装置

「長崎くんち」という祭礼を知ったのは谷川史子さんの漫画でした。
最初のコミック「花いちもんめ」に入ってるお話が印象に残っている。
それ以来、秋のお祭りを見るたびに「長崎くんち」のことも浮かんでくる。
漫画や小説の力は記憶装置のようだ。ふと思い出す感情のパッケージ。

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うたた寝していると祖父母宅では祖母が。
実家では母がそうっと布団をかけてくれた。
半覚醒くらいの状態で、上からふわりとふってくるもの。
「ありがとう」心の中でつぶやきながらまた眠りの中へ戻っていく。

「寒くない?」「お腹すいてない?」そう子どもたちに声をかけるたびに、あの感覚を思い出している。
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「谷川さんはまんが界の永遠の少女です」

「お誕生日おめでとうございます」
手渡されたミニブーケに驚いていると「誕生日ですよね?」と首を傾げる彼の顔が見える。
女子がみんな花を好きだとは思うなよ。なんて言ってみたって、そのブーケはいつまでもテーブルの上で輝いていた。
こんなの好きになっちゃうでしょ。花は知らんぷりで咲き続ける。

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言葉の選び方にその人らしさは色濃くでてくる。
大切にしている本質すら浮かんでくるように。

恋にLoveをあてている人をみて「愛じゃないんだ」と思うこの気持ち。
Loveには愛をあてます。それは個々の言葉の選び方。

「好きな人が、自分を好きになってくれるってすごいです。」

谷川史子さんの作品を読んでいると、この言葉が浮かんでくる。
「恋」という言葉を辞書で調べた時にでてくるような感覚。

好きな人が自分を好きになってくれて、結婚して、今も一緒にいるなんてさ。
奇跡みたいなもの。

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谷川さんが描く女性は、明るく真っ直ぐ。5月の空に伸び続ける緑のようで
ちょっと眩しい。

私の物語の主人公はわたしだけど、あなたの物語の主人公はあなたです。
みんなが幸せは耳障りが良いけど、みんなが幸せになれるストーリーはないと気づいて生きるのも乙なものです。
それでも手放したくないものがあるのなら、好きは伝えたい。
「わたしはここにいます」全てはそこからはじまるから。

今日のひとさじ

あっさい知識で申し訳ないけど、「はじめにことばありき」って聞いた時に
「すっごー。光よりも音よりも言葉は最速で届くんだ」と感動したのです。
知らんけど。
最果タヒさんにはなれないけど。(そりゃそうだ。相手はサイハテだよ。こちとら半径2メートル世界。両手を広げた長さくらいだ)

情報の有益性もコンテンツもない。
ただ言葉を使って好きですゆうてるだけなのです。

後書きとかコミックの表紙裏にある「作者のことば」「近況」が好き。

ある年の春に届いた葉書の隅に、故郷の桜の花びらが一枚貼られていました。

コミック「手紙」の作者の言葉が「くらしのいずみ/染井家」を読んだときにつながってさ。
体験やその時の思いが次につながる感が「これでいいんだー!!」って思えて。
この感覚はちょっと忘れられない。
だから読むのはやめられない。そして書くこともまた、枕の匂いを嗅いでしまうように、何度でも感情を味わいたくて書き続けてしまうのです。

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