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高速道路を走っただけで天下を取ったユーミン・松任谷由実『中央フリーウェイ』論:この歌詞がすごい!2曲目

(初出:旧ブログ2019/02/09)
 『中央フリーウェイ』が『やさしさに包まれたなら』、『春よ、来い』などと並ぶ松任谷由実の代表曲であることには異論が無いはずである。しかし『中央フリーウェイ』が唯一無二である理由は、「高速道路でドライブするだけの歌詞」という点にある。ニューミュージックを標榜し、それまでのフォーク的邦楽歌詞を変えたユーミンからの、「私は壮大な愛だの恋だのを歌わなくたって、ヒットを飛ばせる」というメッセージを感じるからだ。

 この『中央フリーウェイ』には<中央フリーウェイ>という歌詞が5回繰り返し強調される。あくまでも<中央フリーウェイ>であって、決して「中央自動車道」ではないといわんばかりに。<フリーウェイ>なんていう歌詞じゃなかったら、キザでバタくさいはずの単語を、全く不自然無く歌ってしまうのがユーミンの凄いところである。<小さい頃は神様がいた>り、<恋人がサンタクロース>だったりする、ユーミンの「断言する」歌詞の真骨頂だと思う。あくまでも”フリーウェイ”だからこそ<調布基地>、<競馬場>、<ビール工場>という男性的、もっといえば「おっさん」的な趣味のものが登場しても(しかもケイバジョウ、ビールコウジョウと、-ジョウで韻を踏んでいる)、暖かい女性的な視点が失われないのは、もはやユーミンの魔法というほかない。

 しかもハンドルを握る恋人とそんなに「ラブラブ」ではない。<初めて会った頃は 毎日ドライブした>「ラブラブ」だった時期もあるようだが、<このごろは ちょっと冷たい>
ようだし、<愛しているって 言ってもきこえない>のだ。<風が強くて>。ここに前述のユーミン的「ラブソング否定」が入っているように考えられる。「毎日ドライブ」しても「愛してるって言っても」結局、過去のものになったり、聴こえなかったりする。ストレートなラブソングに対して「な~んちゃって」と言いたげな、ユーミンの強い意志を感じる。そんな愛だの恋だの言ってないで、倦怠期になった恋人とのドライブをのんびり楽しみませんか。見慣れた風景も黄昏時になれば結構ロマンチックだし、<夜空に続く>、<滑走路>に見えなくもないですよ。もっと細やかな日常に目を向けましょうよ。「中央自動車道」だって、言い様によっちゃあ<フリーウェイ>よ。そんな自立した女性の強さを感じられるところこそ、ユーミンが国民的歌手として愛される理由ではないだろうか。

#音楽 #歌詞 #松任谷由実

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