新版画の内容(渡邊庄三郎、一問一答)

今回令和の新版画を作るにあたって、明治大正新版画の木版画製作へのアプローチを調べています。渡邊庄三郎氏の残した言葉を振り返って鑑みると、現代に通底する問題、また創作版画と”創造性”を軸にしのぎを削った当時の時代背景を感じることも出来て興味深かったです。


引用:「浮世絵師伝」昭和六年九月三十日刊
新版画の内容 質問―回答

私共の許に出版される木版画に就て、購はるゝ方々から種々の質問を受けますが、漫然と愛好されるより其れだけ熱心なる態度で見らるゝ事を非常に喜びまして、平素私は能ふだけ御解りになるやう御答へして居ります。其等の質問解答は、版画を鑑賞せらるゝ皆様の為めに興味を添へる事と存じまして茲に其の一端を載せてみました。尚ほ御了解にならぬ点は御問合せあらんことを希望致します。

(問)新版画の製作法は昔の錦絵を同じですか。

(答)彫刻法、摺刷法等は昔と同じです、併し作る心持は全然違ひます。旧型に囚われないやう又肉筆画らしく成らぬやう、独立した芸術品を作る事に各技術家が協力努力して居ます。

(問)自画自刻の版画と、画家、彫師、摺師の三者共同に出来たものとは何れが優って居りますか。

(答)それは一概に優劣を決める事は出来ませんが、自然の形象を為す事が巧みで、彫刻、描別等にも相当の技術を持ち、よく版画の要点を解して居る人が、全精力を挙げて作ったものなら良いでせう。併しそれは言うべくして行はれ難い事です。つまり良い創作版画を作るには、版木の彫刻、摺刷等各々特殊専門の技術と非常の労力を要しますので、理論や見開だけでは出来上がりません。従つて不熟練の技術では、自画自刻でも画家の理想の感じを現はす事は出来ません。私共では最初から画家に版画の特質に就て了解を求め、画家の思ふ儘に彫方摺方を試み、何回でも作家の意に適するまで版の訂正或は摺直しを致します。画家が摺師を督して意の如く充分なる感じを現はし得ざる場合には、参考として私の意見を述べる事がありますが画家の個性を発露する事が主なのですから、三者共同と云ふよりも彫師や摺師が画家の助手に成って居ると云ふ方が適当であります。

(問)版画の絵具材料等は如何なるものを用いますか。

(答)彫刻用の板木は山桜で昔と変わりせん。校木の外種々板へ試みましたが不結果でした。
用紙は越前の奉書を純生漉に特別に注文して漉かせます。此頃の紙はパルプが混って居りますから、上等の印刷用紙になりません。
絵具は植物性のものが主で、見た所は昔のと同じ様でも品質が堕ちて来て居ります。創作版画には顔料の良否が直接影響を与えますから、出来るだけ良質のものを選択する事に努めて居ります、或は水彩絵具中、変色しない保険付のものなどを使用致します。

(問)或場合に摺り方が粗々しく軽く、又は掻き廻した様に摺ってあるのは如何なる加減ですか、其の様な板木を作ってあるのですか。

(答)其の部分に要する板木は普通一枚ですが、バレン(手摺器具の一種)を使用する手加減に依つて、縦横に或は圓やかに摺り目を残します此の摺り方は、画面適当の場合に用いますと非常に効果があります平たく均等に摺り付ける事は如何なる摺師にでも能きますが、画面に応じて粗く摺る事は、監督者又は摺刷に携はる画家が板画の性質を理解して初めて効を奏するのであります。

(問)一つの版画に要する板敷は幾枚位か、又度数は何遍位摺ますか。

(答)大概五色以上十二色位の色分けに成りまして両面に掘りますから、板は平均五枚位で足ります。摺刷の度数は一つの色版で五六遍摺ることもあり、部分毎に摺り分けることもありますから、極く少ないもので二十遍、川瀬巴水氏のものは大抵三十五遍以上になつて居ります。伊東深水氏の「対鏡」「春」などは、黒、赤、白の簡単なる数色に見えますが、各三十七八遍摺になつて居ります。斯様に遍数の多い事や其他苦心の点を挙げて見た所で大して自慢にも成りませんが要するに、清新な気分を現はす事が出来れば、私共の本懐とする所であります。

(問)板木の生命は幾枚位摺るまで保ちますか。

(答)板木の摩滅する程度まで摺りましたならば、千校でも二千校でも摺れます、併し私は昔の錦絵を取扱ひながら、北斎、広重等の初摺を比較して、其の後摺になるほど如何に無惨に芸術的価値を殺がれて居るかと云ふ事を知って居ます。私共では画家の監督の下に摺師が興味を以て摺込み得らるゝ初摺だけ売尽したならば絶版致します。其の枚数は百枚乃至二百枚、多くて三百枚を超える事は断じてありません。

(問)版画の保存法は如何しますか。

(答)木版画の色彩は見た眼に非常に柔らかい感じを与えます。それは草の葉、花、樹皮等を原料とした植物性の絵具を主として用いてある為です。それ故太陽の光線に当たれば褪め易く、湿気を含んだ所へ長く置くと変色しますから、其の点を御注意なされば、永久に良い色調を保つ事が能きます。又硝子付きの額面へ入れて懸けられる際にも、二ヶ月目位に入替へて見られるならば其の憂ひはありません。

(以上、渡邉庄三郎述)

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浮世絵製作/版元&彫り担当/WEB空間の画像作品を浮世絵由来の木版画(新版画)にする事を夢想してます。

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