隣人のみならず自分も愛せ

体型にコンプレックスがあった。主に脚。さらに言うなら太腿。
もともと漫画・アニメなどの二次元オタクで、さらにKERAやZipperなど青文字系雑誌の愛読者であったわたしは、棒のようなすらりとした脚に対するあこがれが尋常ではなく、むだな肉のついた自分の脚を心底憎んでいた。

棒のような脚へのあこがれに伴う自分の体型への憎悪は、ついさいきんまで自分に付き纏っていた。ほんの3ヶ月くらい前まで、わたしは自分の体型を好きになれなかった。

自分の体型への認識が大きく変わるきっかけをくれたのは、同居している祖母だった。

ある朝、祖母はスキニーを穿いてTシャツを着たわたしの姿をみて、「やこちゃんは均整の取れた体をしとるねえ」と言った。ごく自然な調子で。

反射的に「そやろ、ええやろ」とふざけて答えたのだけど、祖母は基本的に人の外見に言及するほうではないので、祖母の評価におどろいた。それから、すこしずつ自分の脚に対するわだかまりが溶けていった。

駄目押しは、好きなAV女優さんの脚をちゃんと見たことだった。わたしはたまに男性用のAVを観るのだけど、だいたい胸か、下がってもくびれまでしか意識がいかず、脚には特に注目してこなかった。

でもある日、とある女優さんが裸で立っているときの脚を見て、雷に打たれたように、「わたしが目指す脚はこれだ!」と思った。人にはもって生まれたものがある。棒みたいなすらっとした脚はもちろん好きだけど、こっちはこっちで綺麗やん。てか、わたしの脚が近づける形ってこっちやん!と気づいた。目がひらいたような気分だった。

不思議なもんで、「いいやん!肉!」と思うようになったら、あんなに憎んできた脚の肉がいやではなくなってきた。それに、好き放題食べてるのになんかしらんけど痩せている。自分の体が嫌いなの、ストレスだったんだろうなあと思う。よかったー肯定できるようになって。
一時は太腿の脂肪吸引しようとまで思い詰めてましたからね(費用が高額だったのと、術後の写真検索したらあまりにも痛そうすぎたので思いとどまりましたが…)。

あまりにも月並みな表現だけども、幸福なんてものはマジで主観で決まるな、といま一度実感した次第。わかってたつもりだったけど、ひさびさに肌で感じた。

自分のいまの体が嫌いで、とにかく細くなろうと食事制限したりマッサージや運動に勤しんだりしていたころより、自分の体の長所をまず認めて、嫌いだった箇所にも価値を見出すようになってからのほうがずっと気楽で幸せ。服考えるのもたのしいし、化粧もたのしい。

自分の脚に対する意識が変わったとき、漫画家・槇村さとる先生の『3年後のカラダ計画』というエッセイを思い出した。

なんでも槇村先生はウォーキングクラスに通っていたのだけど、なかなかうまく歩けなくて、鏡に映る自分の脚にずっとダメ出しをしていたらしい。
売れっ子の漫画家さんはとくに人体の造形に対するこだわりが強いから(安野モヨコ先生もご自分はもとより、道ゆく女の子の脚などを見て瞬間的に点数をつけてしまうというような話をエッセイでしていた)、きっと槇村先生も自分の脚にたくさん不満があったんだろうと思う。

それでもずっとウォーキングクラスを続けていたらある日、自分の脚に対して「(かわいいなァ…)という思いがポコッとわいた」のだという。

短くて曲った脚
太いふくらはぎ
安定しない骨盤
文句言ったらキリがないのに
「この脚は世界にひとつしかない私だけの足だ」といきなり思えた。
引用元:槇村さとる『3年後のカラダ計画(幻冬舎文庫)』

これを初めて読んだときは、「そうかー、そんなふうに考えられるようになる人もおるのか」と、完全に他人事に感じていた。
でも、いま実際こうして意識が変わってみると、あー!ほんとこういうことマジでありますね!と首がもげるほど同意できる。いまは自分の脚に、好きよ!と思うし、言いたい。
そして、謝りたい。いままで蔑ろにしてきてほんとうにごめん。虫がいいけど、今後は仲良くしてほしい。

わたしはなにがどうなろうが一生わたしのままで、わたしという容れ物からは出られないので、いまの状態を好きになるか好きになれるように変えるか、どちらかをしようと思う。自分を嫌いなまま生きてくの、やっぱしんどいわ。

死ぬほど落ちてるときはいまだに、そもそも生まれてこんかったらよかった、なんもいいとこないし、かっこ悪いし、なんも為してないし、ずるいし、凡人だし、生きとる意味ないのになんで生まれてきたんかなと無限に思いつめてしまうんだけど、すごい、疲れるんですよ。いま読んどっても疲れません?

だめなわたしもわたしだし、だめでもべつに生きてていいし、才能なくても小説書いてていいし、賞もらってなくても書き続けてていいし、書きたくないときはさぼってもいいし、仕事で否定されたら泣いてもいい。

気持ちが安定してるときはそう思えるようになったので、そう思える時間が長くなるように、自分を根本から好きになっていきたいなあというお話でした。

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