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詩集を ー第13回おきなわ文学賞

 沖縄県文化振興会が主催する「おきなわ文学賞」の詩部門の選考委員を第2回から第13回まで12年間つとめさせていただいた。2017年度(2018年3月まで)をもって退任した。当初は与那覇幹夫さん、大城貞俊さんと3人で、最後は仲村渠芳江さんと2人で担当した。途中、松原敏夫さんにもお世話になった。同じ人が長い間、つとめることの弊害もある。平田大一さんが県文化振興会の理事長をつとめた時期の改革によって、原則として再任を認めない方針になった(と思う)のはよいことだと思う。2018年に発行された第13回おきなわ文学賞作品集「はなうる」に掲載された、わたしの最後の講評を以下に貼り付ける。

 第13回おきなわ文学賞の詩部門には62編の応募があった。最も少なかった昨年より10編増えた。今回も一席を出せなかったのは残念だったが、激しく心を揺さぶられるいくつかの詩に出会うことができた。
 入選作については仲村渠芳江さんに評していただく。特にわたしが推したのは「方舟記」(とうてつ)。模範的であろうとする自己と、内面に正対しようとする自己の葛藤を、相反する言葉の組み合わせで表現しているのだろう。わたしはこの人の詩集を読みたい。
 ほか選考会で入賞候補に挙がったのは「夜のキャラバン」(とうてつ)、「仮想前夜」(同)、「影」(玉城琉舞)、「カレー店」(真壁真治)、「海は」(同)、「アトムの嘆き」(高柴三聞)、「問診」(栄徳篤)、「前田高地」(照屋ゆうこ)、「明日」(東由希恵)の9作品だ。候補に推すことはできなかったが、わたしが気になった作品に「アンパラソル」(河野水穂)、「種の詩」(元澤一樹)もあった。選外にはなったが、これらの作品にもそれぞれ光る詩行があった。
 応募作に既発表作品が含まれていたのは残念だった。おきなわ文学賞は今回から、点字による作品も受け付けている。今回の詩部門には応募がなかったようだが、今後に期待したい。
 これまでおきなわ文学賞の詩部門入賞者のうち、仲村渠芳江さん、トーマ・ヒロコさん、西原裕美さんが書きためた作品を詩集として発行し、山之口貘賞を受賞した。現代詩の賞は詩集を対象としたものが多い。特に沖縄は地元の新聞や雑誌に投稿欄がなく、詩壇の入り口が閉ざされたような状況が長く続いた。おきなわ文学賞は応募料こそ必要だが、詩集を出さなくとも作品単体で応募できる。その間口の広さによって、この13年間で多くの書き手を送り出してきた。沖縄の現代詩にとって、おきなわ文学賞の存在はさらに大きくなっていくはずだ。詩壇が豊かさを増すためにも、今後も多くの人に応募してほしい。
 そして今回の入賞者、これまでの入賞者にはぜひ詩を書き続け、詩集を出してほしい。装丁にもよるが、5万円でも詩集は出せる。詩集にすれば、書き手の生み出す世界がより立体的に読者の眼前に姿を現す。それを北海道の人が読むかもしれない。アルゼンチンの人が読み、心を揺さぶられるかもしれない。百年後の人が読み、触発されて詩を書くかもしれない。詩集を世に問う時、おきなわ文学賞に入選したという事実が、力強く背を押してくれるはずだ。 

 いつも誰にでも言いたかったが、なぜかあまり言葉にしてこなかった「詩集を出してください」というのを前面に出して終えた。10数年前よりも詩集の出版にかかる経済的負担が軽減された状況が大きい。

 12年間を振り返って、この人の詩集を読んでみたいと思う人がいる。一人や二人ではない。もちろん入賞経験者によって実際に世に出された詩集もとても心を揺さぶられるものだ。ただ詩集発行にはいたっていないそれらの入賞経験者も詩集を発行していれば、現在の詩壇の状況は少し違うものになっていたのだろうと思う。もちろん今からでも遅いことはまったくない。

 年代によって詩壇の状況を区切ることは乱暴かもしれないが、60年代から80年代にかけての沖縄の詩壇と現在との違いはさまざまにある。詩の内実は現在さらに多様化し、充実したものになっているのかもしれない。これはおきなわ文学賞、琉球大学びぶりお文学賞が多くの書き手に光を当ててきた成果だろう。ただ90年代末から変わらず、何か熱気のようなものに欠けているような気がしてならないのはなぜなのか。まだそれがよくわからないのは、ひとえにわたしの不勉強によるところだと思う。

 わたしは選考委員を引き受けた当初、20代だったこともあり、表彰式で初めて顔を合わせた入選者に「こんな若造に選ばれたのか」と言いたげな、愕然とした表情をされたことも一度や二度ではない。しかしそれだけさまざまな境遇にある方々がその人生経験を、存在そのものをかけて体当たりしてきたものに向き合い、圧倒されながらも必死で打ち返してきたつもりだ。そこで得たものは大きく、多様だ。いずれそれをあらためて何らかの形にして、恩返ししていければと考えている。

 ちなみに現在、おきなわ文学賞の詩部門は仲村渠さん、西原裕美さんの2人が選考委員をつとめている。

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