アイシング

肩が外れた!?肩関節脱臼のスポーツ現場での対処とは?

こんにちは!

中国で開催されるバスケットボールのワールドカップが近づいてきましたね。

今回はNBAでドラフト指名された八村塁選手をはじめ、有力な若手の選手も揃っており史上最強のメンバーとも言われています。

予選ラウンドではアメリカ代表とも対戦が控えているので
今から非常に楽しみです!

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さて今回はスポーツ現場で肩が外れてしまった時の対処方法について解説していきます。


いわゆる「肩が外れた」状態は

肩関節脱臼という怪我のことを指します。


「足首の捻挫は癖になる」

と聞いたことがあるかと思いますが、


肩関節脱臼も癖になる厄介な怪我で、一度ついた脱臼癖を治すには手術が必要になります。


肩関節脱臼は
ラグビー・アメリカンフットボール・柔道などコンタクトスポーツで多く発生します。

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バスケットボールでも発生し、

NBAの選手の中では
ケビン・ラブ、エネス・カンター、ドウェイン・ウェイドなど

日本では
川崎ブレイブサンダースの辻直人選手が経験し手術を行っています。


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肩がへこんでみえますね…


辻選手はワールドカップの代表候補でしたが、怪我の影響で出場できないことは非常に残念です…




もし目の前の選手が脱臼を起こした時に出来ることは何でしょうか?


「脱臼だから腕を引っ張れば戻る」
「痛みがあるけど動かせるから試合に復帰しても大丈夫」


非常に危険な考えです


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脱臼が起きた時、スポーツ現場でやるべき事は

肩の状態を悪化させず医療機関を受診することです



脱臼を戻そうと乱暴に扱うことは肩の状態を悪化させます。


脱臼を戻す行為は整復と呼ばれ、医師・柔道整復師のみにできる行為です。

しかし、医師や柔道整復師はおろか医療従事者がスポーツ現場に常にいることはほとんどありません。


では脱臼が起きてしまったらどうしたらいいか?


そんな疑問を解消するために、現場での対応を解説していきます!


◆肩関節脱臼とは


上腕骨と肩甲骨で構成される肩甲上腕関節の脱臼です。

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肩甲上腕関節は骨だけでは安定性に欠ける構造で
軟骨・靭帯・筋肉などの組織によって関節を包むように補強されています。


スポーツでは

手を後ろについた状態で相手に前に押される
接触で腕を後ろにはじかれる

などで受傷することが多いです。

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脱臼は
外力が補強している組織の強度を越えて発生するので

必ず組織の損傷を伴います。

脱臼を繰り返すことで組織はボロボロになり補強機能が失われます。
補強機能の低下は軽い力にも耐えられなくなり、
日常生活でも脱臼の恐怖感が出るようになってしまいます。

これが脱臼癖になる最大の問題です。


◆肩関節脱臼の症状


肩関節脱臼は外力により上腕骨が肩甲骨から外れた状態です

大きく前方脱臼後方脱臼に分けられ、
上腕骨が肩甲骨の前に外れる

前方脱臼が
肩関節脱臼の約95%をしめます

ここでは前方脱臼の解説をしていきます。


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肩関節前方脱臼の症状
自分で動かすことができない
・肩に強い痛みがある
・肩の外側の丸みが無くなり、骨が出っ張る

特に肩の丸みは肩関節脱臼を見分けるために重要なポイントです


丸みがあるにも関わらず激しい痛みや腕が動かせない場合は骨折や神経を損傷している可能性があります。
痛みが無い範囲で出来る限り肩を露出し、触ってみて肩の丸みを確認しましょう。

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合併症としては
上腕骨や肩甲骨の骨折、関節周りの軟骨損傷、脇の下を走る神経や血管の損傷などがあります。


◆スポーツ現場での対応

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緊急性の確認

現場でよくあることは怪我をした場所ばかりに目が向いてしまうことです。
選手が痛みでパニックを起こしてしまっている場合、
一度選手を落ち着かせ状態を確認します。


確認事項
意識状態が悪い
・指先まで動かすことができない
・腕から手先の皮膚が冷たくなっている

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*意識状態が悪い場合

頭、胸など、肩以外を損傷している可能性があります。

*感覚の異常や皮膚が冷たい場合

脱臼以外にも骨折血管、神経などを損傷しているかもしれません。



大きな怪我が発生した場合、痛がる選手を目の当たりにすることで
判断が遅れることはよくあります。
まず対応するスタッフ自身が冷静になり対応しましょう。


腕を固定する

必要なもの:三角巾 バンテージ

先述の確認事項に当てはまらなく、
脱臼が疑える場合には腕に負担がかからないように固定をします。

若年者では固定せずにいると、反復性肩関節脱臼になる可能性が高く、
20歳未満の初回脱臼の95%は再脱臼する(Maluaghlin)
という報告があります

反復性肩関節脱臼:肩の脱臼が癖になってしまった状態

反復性肩関節脱臼を防ぐためには初期の固定が非常に重要なのです。


【固定方法】

①三角巾で腕を支える

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②さらにバンテージで体幹に固定して
腕の動揺を防ぐ
バンテージを止めるときは外れないように体の前で止めます。

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三角巾がその場にない場合は
ベルトなどを使うことで腕を支えることもできます。

もしその場に何もない場合は反対側の腕で支えましょう。


三角巾やバンテージは怪我全般に対応できるので非常に便利です!


三角巾はドラッグストア、
バンテージはスポーツショップなどに売っているので

チームに1つは用意しておくことがオススメです!


●アイシング

必要なもの:氷 ビニール袋 氷嚢など


アイシングは痛み・筋肉の緊張を和らげ、炎症を抑える効果があります。


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痛みで筋肉が強く緊張した状態が続くと医療機関での処置に影響が出ます

アイシングは保冷材などでは冷えすぎて凍傷を起こす可能性があるので注意が必要です。


◆もし医療機関までに時間を要する場合


最後に参考として

全身状態に異常がなく緊急性が低く、
発生した場所が医療機関まで時間がかかる場合など
腕の重みを利用して自然に戻るのを待つ方法もあります。


これをスティムソン法といい
腕の重みにより筋肉をリラックスさせ、腕に重りを巻きつけ自然に脱臼が戻るのを待ちます。

力を加えて腕を引かないので比較的、安全に行える方法です。

スポーツ現場では重りが無い場合、腕の重みで脱力させます。

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【スティムソン法】

最初にも説明しましたが医師・柔道整復師以外は脱臼を戻すことはできません。

無理に戻すことは絶対にやめましょう。


◆まとめ


肩関節脱臼は
癖になると手術を行う必要があり、復帰まで長い時間がかかります。

特に利き腕が癖になってしまうとパフォーマンスが低下することは避けられません

怪我が発生し、適切な対処を行うことで
選手にとってその後の治療を円滑に進める事につながります。


肩の怪我と見くびらずにしっかり対応できるようにしましょう!

今回もご覧いただきありがとうございました!




参考文献

(肩関節外科の要点と盲点 編集 高岸憲二 監修 岩本幸英 文光堂)

(上肢急性外傷のリハビリテーションとリコンディショニング 
  編集 宮下浩二 文光堂)



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