見出し画像

社内唯一のUXライターはどのような働き方をしているのか

UXライティング専門メディアのKOTOBA UXで、「ソロのUXライターとして成功するための5つのヒント」という記事が公開されていました。

まだまだ日本で認知度が低いUXライターという職業について、非常にわかりやすく紹介されています。

実は私も、前職の楽天、現在所属しているPaidyで、組織や社内で唯一のUXライターとして働いています。この記事を読んで、自分でもこうした記事を書くことが誰かの役に立つのではないかと思い、今回は私がなぜUXライターになったのかと、UXライターとしての働き方についてまとめてみたいと思います。

UXライターに興味がある人や、UXライターの採用を検討している方のお役に立てれば幸いです。

UXライターになったきっかけ

まずは私がUXライターになった経緯についてです。UXライターは新しい職業なので、どうやったらなれるのか?ということもまだまだ知られていないと思います。なので、あくまで私の事例ですが、簡単にこれまでのキャリアをご紹介します。自分の興味関心や理想的な働き方を選んだ結果がUXライターという仕事だったので、少し長めに詳しく書きますが、興味がなければ読み飛ばしてください。

私は大学の理系学部を卒業した後、大学院に進学しました。文章を書く仕事をしている人は文系出身のイメージがあると思いますが、私は理系出身でUXライターをやっています。実はこの理系出身というのが、自分がUXライターの適性があった理由のひとつなのではないかと思っています。UXライティングはCTRやCVR、メールやプッシュ通知の開封率など、常にデータ分析と併せて考える必要があるからです。転職を考え始めた頃に、統計検定2級を取得したのですが、それもこれからのキャリアを考える上で、統計学やデータ分析に強いということが、自分の人材としての市場価値を上げることに繋がると考えたからでした。

大学院を修了後、新卒で広告会社に入社しました。CMプランナーとしてCMをつくる仕事がしたかった私は、学生時代に宣伝会議のコピーライター養成講座に通い、なんとか総合広告代理店に入社することができました。一年目は営業として入社しましたが、入社後もクリエイティブ局に異動したいと常にアピールしていたこともあって、幸運にも2年目からはクリエイティブ局でコピーライターとして働くことができました。

およそ10年ぐらいの間、コピーライターとして、新聞広告、ラジオCM、テレビCM、パンフレットなどの制作を担当しました。その中で、自分の中で大きなターニングポイントになったのが、あるメディア系のアプリのプロモーションを担当したことです。その仕事を担当する中で、これまでの新聞やテレビなどのマス媒体ではなく、デジタルメディアでの企画やライティングの仕事が圧倒的に増えたのです。そして、キャンペーンのLP制作や、アプリの使い方を説明するパンフレットなど、今思い返すと、まさにUXライティングそのものの仕事をしていたのです。

そうした仕事を、広告会社とクライアントという関係性でプロジェクトを進める中で、自分の中で新しい気持ちが生まれました。コピーライターとして、広告会社ではなく、事業会社で働いた方が、自分の理想的な働き方を実現しながら、ビジネスの成長の役に立てるのではないかと思ったのです。

その大きな理由は次の2つです。

①伝言ゲームを最低限に

私が仕事をする上で、最も避けたいことのひとつが伝言ゲームです。最終的な意思決定者から実際にコピーを書く自分までの間に、入る人数が増えれば増えるほど、伝言ゲームは繰り返され、長くなっていきます。

私はこの伝言ゲームが本当に嫌いです。なぜなら、人から人に伝わることで、自分の提案も、フィードバックも、捻じ曲がって伝わるからです。

私は広告会社、事業会社(大企業)、事業会社(スタートアップ)の3つの環境でコピーライター/UXライターとして働いた経験がありますが、それぞれの伝言ゲームをざっくり表すと以下の図のようになります。

伝言ゲーム

青の矢印が提案の向き、赤の矢印がフィードバックの向きです。白枠がクライアントや事業会社、黒枠が広告会社を表しています。図を見てわかる通り、転職を重ねるたびに、伝言ゲームが短くなっています。

広告会社にいたころは、私が考えたコピーを、CD(クリエイティブディレクター)が営業に提案し、営業がクライアントの現場担当者に提案し、クライアントの現場担当者がマネージャーに提案し、マネージャーが最終的な意思決定者に提案します。その後、そのコピーに対するフィードバックが、提案時に通った道と逆の道を辿って私のところに戻ってくるわけです。

こうした伝言ゲームが増えれば増えるほど、仕事のパフォーマンスは圧倒的に落ちます。私の提案が人を介すことで意思決定者に捻じ曲がって伝わり、意思決定者のフィードバックが人を介すことで私に捻じ曲がって伝わるからです。特にフィードバックは伝言ゲームを続けるうちに全く違う内容になることがあります。「クライアントがこういう風に修正してくれと言っている」というフィードバックについて、「どう考えてもおかしいと思うので、本当にそう言ってるかもう一度確認してもらえますか?」とお願いしたら、全く違うフィードバックが返ってくる、ということが日常茶飯事でした。

こうした無駄なやりとりは、すべて私が直接意思決定者からフィードバックを聞くことで解決できます。さらに、その場で「こういうコピーだったらどうですか?」と聞くことができるので、圧倒的にスムーズに仕事ができるのです。

なので、私はなるべく、意思決定者に近い人、もしくは意思決定者本人からフィードバックをもらうようにしていました。営業を介してフィードバックをもらうのではなく、クライアントに自分も同行して、直接フィードバックを聞くのです。そうすることで、無駄なやり取りを軽減することができました。こうした経験から、自分は広告会社という外部から関わるのではなく、事業会社で働いたほうが、意思決定者の近くで仕事ができるのではないかと思いました。

そうして一度目の転職を経験した時の状況が、上記の図の「事業会社(大企業)」になります。事業会社に転職することで、かなり伝言ゲームは少なくなりました。しかし、それでもやはり大企業では関わる人数が多く、承認プロセスの多さなどで、なかなか自分の思うように仕事を進められないことがありました。

その後、さらにスタートアップに転職した現在の状況が「事業会社(スタートアップ)」になります。私は現在、150人程度のスタートアップで働いていますが、プロジェクトに関わる人数が圧倒的に少ないので、非常にスムーズに仕事ができています。図にある通り、ほとんどの仕事で意思決定者から直接フィードバックをもらえるので、伝言ゲームによるストレスもほぼありません。

この「伝言ゲームを最低限にしたい」というのが、事業会社に転職した理由のひとつでした。

②データへのアクセスのしやすさ

もうひとつの理由が、データへのアクセスのしやすさです。

私は自分の書いたコピーや企画が、どの程度ビジネスの成長に貢献したかを正確に把握したいと思っています。CTRやCVRなど、効果が高かったものは自分の知見として蓄積し、再現できるようにしたいからです。

広告会社にいた頃も、バナーやLPの制作を担当していたのですが、そのクリエイティブの成果については、すべてを教えてもらえるわけではありませんでした。特にバナーを複数パターン作ってABテストを行う場合など、どのバナーがいちばん効果的だったのかを知りたかったのですが、広告会社の業務領域はバナーを制作するところまで、という場合も多かったのです。もちろん積極的に教えてほしいと言えば教えてくれるクライアントもいましたが、データを社外に開示できない場合や、毎回教えてほしいと営業に言うのも気が引ける部分もありました。

そうした私が抱えていた課題は、広告会社で外部から関わるのでなく、事業会社で働くことで解決できるのではないかと思ったのです。

実際、事業会社に転職することで、CTRやCVRはもちろん、アプリのダウンロード数やメールの開封率など、自分のアウトプットの成果や自分が関わるプロダクトの状況をかなり正確に把握できるようになりました。ダッシュボードで常に数字を確認しながら、コピーの精度を評価できるようになったのです。自分ではわからないデータも、社内なので伝言ゲームが少なく、Slackで気軽にお願いすることができます。

なぜフリーではなくインハウスなのか

UXライターとしてフリーで活動する選択肢もあるのですが、私がインハウスのUXライターとして働いてるのも、こうしたことが理由になります。伝言ゲームを極限まで削ることによるスピード感、外部の人間ではアクセスできない情報の収集、プロダクトのコアな部分へのコミットなど、インハウスのUXライターとして働くことが、自分には合っていると思っています。

コピーライターとして、伝言ゲームがなるべく少ない環境で仕事をしたい、データに自由にアクセスできる環境で働きたいと思った結果、事業会社である楽天に転職しました。そこで、アプリやウェブサービスのコピーを担当する中で、偶然たどり着いたのがUXライティングでした。なので、UXライターになりたくてなったとか、どうしてもUXライティングがやりたかったというよりも、理想の働き方や働く環境を追求した結果、気が付いたらUXライターとしてUXライティングの仕事をするようになった、というのが実感に近いです。

UXライターは誰と、どのようなプロセスで仕事を進めるのか

実際に私が社内で唯一のUXライターとしてどのように働いているかについてですが、一般的な業務プロセスは下記のような感じです。

UXライターの業務プロセス本文用

あくまで私の経験でしかないですが、前職の楽天と現職のPaidyで、関わるチームメンバーや業務プロセス、使用するツール(figma)は、ほぼ同じでした。なので、楽天からPaidyへ転職したにも関わらずめちゃくちゃスムーズに業務を開始できたのですが、組織や社内で唯一のUXライターとして働く場合、ある程度一般性のある業務プロセスなのではないかと思います。

まずチームのメンバーですが、プロダクトマネージャーとUXデザイナーとUXライター(私)の3人でプロジェクトを進めるのが、最もミニマムでありベーシックなチーム編成です。プロジェクトの規模が大きくなると、それに応じて関わる人数も増えていきますが、上記が伝言ゲームの話からもわかる通り、私はたくさんの人数が関わるプロジェクトがあまり好きではありません。なので、プロダクト開発においても、この3人でわいわいやりながらプロダクトを作っていく感じがすごく好きです。

今回は、この3人のチームで新しい機能を実装する場合の業務プロセスについてざっくりまとめてみます。

①Kick off

まず、プロダクトマネージャー、UXデザイナー、UXライター(私)の3人で集まって、kick offミーティングをします。ここで、どういう目的で新しい機能を実装したいのかとか、KPIは何なのかとか、スケジュール感はどんな感じなのか、みたいな話をざっくり聞きます。

UXライターとして私がいちばん重要だと思っているのがここなのですが、私はとにかくプロジェクトの上流から関わりたいと思っています。UIの文言検討でありがちなのが、図でいうところの④のUI検討の段階で声をかけられるパターンです。ほぼUIが出来上がった状態でテキストを依頼されるパターンですが、これは絶対に避けたいと思っています。なぜなら、UXライティングはUXやUIも含めて考える必要があるからです。

UXでいうと、仕様の変更ややユースケースによる出し分けをすることで、メッセージをよりユーザーに最適化したものにすることができる可能性があります。例えば、初回のユーザーと2回目以降のユーザーで違うメッセージを出したほうが効果的な場合は、「出し分けすることができますか?」というような提案をPdMにすることになります。そこで、出し分けに必要なエンジニアのリソースや工数を鑑みて、低コストで実装可能なら出し分けしてもらい、出し分けによるメリットよりもコストのほうが大きそうであれば、出し分けせず同じメッセージを掲出する、というような意思決定をします。

UIに関しては、テキストを入れる場所やテキストの量、文字の大きさなど、デザインに関わる部分まで考える必要があり、そもそもテキストが不要になる場合もあります。なので、UXやUIが決まってからでは、最善のUXを実現できない可能性があるのです。

また、私はKick offの時点で、プロジェクトが立ち上がったらすぐに声をかけてもらうようにしています。次の②の機能の検討から関与するべきだと思っているからです。

②機能の検討

私は最終的なUIのテキストを考えるだけでなく、機能そのものに関しても、自分を含めてチームメンバーと一緒にディスカッションすることが多いです。この時点では、プロダクトマネージャーとUXデザイナーとUXライターが、それぞれの専門性を活かしながらも、プロダクト開発に関わるメンバーのひとりとして、フラットな立場として議論している状態だと考えています。なので、ここではテキストを考えるようないわゆるライター的な仕事はほぼなく、機能や仕様のアイデアを出したりすることが自分の役割になります。

③コンテンツの企画

ここがUXライターとしての中心的な仕事になる部分です。チームメンバーとディスカッションしてある程度機能や仕様が固まった後に、ようやくUXライターという肩書からイメージされるような作業になります。実際にUIのドラフトを作っていきます。ここで①私がUXライターとして先にドラフトを作る場合、②UXデザイナーがfigmaでデザインを作る場合、③同時並行で進める場合の3パターンがあります。

私がドラフトを作る際は、PowerPointやGoogleスライドで、UIを作っていきます。オンボーディングやランディングページなど、文字情報が多いコンテンツを作る場合は、私が先にドラフトを作った後、UXデザイナーに私でfigmaに起こしてもらうことが多いです。

④UIの検討

ここはどちらかというと、UXデザイナーが中心になるプロセスです。私がドラフトを作る場合は、UXデザイナーに私が作ったものをベースにfigmaでUIを作成してもらいます。UXデザイナーが先にUIを作成した場合は、プロダクトマネージャーともディスカッションをしながら、figmaにコメントを入れて最終的なUI文言を確定していきます。

この段階で、UIと文言がほぼリリースされる最終版になります。

⑤承認

最後に、最終的な意思決定者に承認をもらいます。意思決定者は、主にマネジメントで、プロダクトオーナーだったり、CMOだったり、時にはCEOだったりします。ここで特に問題がなければ、そのまま実装になります。修正箇所があれば、そこをアップデートして、マネジメントの承認が得られたら実装、という流れになります。

以上が私のUXライターとしての一般的な業務プロセスになります。こうして書くとよくわかるのですが、いわゆるライターとしてテキストを書く作業をするのはほんの一部で、実際はディスカッションやチームメンバーとのコミュニケーションのほうが圧倒的に重要だと思っています。誤解を恐れずに言うと、UXライターの仕事はライティングではない、とさえ思っています。私の仕事はプロダクトを作ることで、ライティングはその手段のひとつ、という考え方が近いです。

社内での働き方は、こちらのインタビューで具体的な事例なども含めてお話しているので、もし興味があれば読んでみてください。

セミナーやセッションで組織でのプレゼンスを上げる

UXライターやUXライティングは、まだまだ新しく生まれた職種や領域なので、私が入った組織でも、私がどういう価値を提供できるのか、という部分については、普段一緒に仕事をしないメンバーには、なかなか伝わりづらい状況がありました。

そこで、私が何度か行ったことがあるのが、社内セミナーやセッションです。全社会議やスキルアップ研修の場を借りて、UXライティングに関するプレゼンテーションを行ったのです。内容は以下のようなものです。

・UXライターの業務領域
・ブランドボイスの考え方
・UXライティングのポイント
・自分が担当した成功事例

こうしたプレゼンテーションを行うことで、UXライターがどのようなバリューが発揮できるのかを伝え、組織としてもUXライティングのスキルが向上することを目指していました。

UXライターは接客業

最後に、私がUXライターとして気をつけていることを書きたいと思っています。

私は、UXライターは接客業である、と思っています。ライターと聞くと、机に向かって黙々とテキストを考えていると思われがちですが、私の場合は全く異なります。チームメンバーやマネジメントとディスカッションしている時間のほう重要であり、時間も圧倒的に長いのです。

私の仕事は、プロダクトマネージャーやUXデザイナー、マーケターなど、誰かが自分に仕事を依頼することで、初めて自分の仕事が生まれる職業です。なので、とにかく気軽に声をかけてもらえるように気をつけています。

以前は広告業界でコピーライターという仕事をしていたのですが、コピーライターにはいわゆる大御所と呼ばれる人たちがいます。当然、その方たちには、とても気軽に声をかけて、仕事をお願いできるような状況ではなかったと思います。依頼者のほうが委縮してしまうのです。そうした大御所の方たちは、もちろんそういうやり方で問題ないと思うのですが、少なくとも私の立場では、「気軽に声が掛けにくい」という状況は絶対に避けるべきだと思っています。なぜなら、声をかけてもらえないということは、そのまま自分の仕事がなくなってしまうということだからです。

UXライターが書くコピーと言うのは、本当に些細なところだったりします。私にお願いする側の立場の人は、「こんな些細なことで、わざわざお願いしてもいいんだろうか?」と考えると思うのです。しかし、そうした些細な言葉の積み重ねこそが、UXライティングの本質です。私がここで言うまでもなく、神は細部に宿ります。どんなに些細なコピーでも、私の目を通すことが、プロダクトの成長に繋がると信じています。なので、可能な限り自分に対するコミュニケーションのハードルを下げて、「言葉に関することは何でも相談してください」と自分をオープンな状態で保つようにしています。これが、私はUXライターが接客業である、と考える理由です。

以上が、私のUXライターとしての働き方をまとめたものになります。もし、もっと詳しく聞きたいとか、UXライティングやUXライターに興味がある方がいましたら、気軽にTwitterのDMnoteのメッセージなどからご連絡ください。私に答えられる範囲であればお答えします。

このnoteが、UXライターやUXライティングに興味がある皆さんのお役に立てば幸いです。


▼本を出版しました▼


この記事が参加している募集

ライターの仕事

サポートも非常にありがたいのですが、著書『秒で伝わる文章術』をぜひよろしくお願いします!https://amzn.to/3JQzpQd