ぺこぱ

「ぺこぱ」の漫才には広告やUXに求められる「時代性」があった

今年は久しぶりにM-1をリアルタイムで見ることができた。今回のM-1は、コピーライター/UXライターという言葉を扱う仕事をしている自分にとって、とても学ぶことが多かったと思う。ということで、自分なりの気付きをいくつか書いてみたい。

今年はツッコミの年だった

すでに色々なところで議論されているが、今年はツッコミの年だった。まずはやはり、優勝したミルクボーイのツッコミだ。「リターン漫才」という新しいフレームの中で、次ようなツッコミが繰り返し使われていた。

○○やないか
○○ちゃうやないか

○○に入る言葉は一回戦がコーンフレーク、最終決戦が最中だった。コーンフレークも最中も、○○に入れたときにしっかりと語感がおもしろくなる言葉が選ばれている。とくに最中は、関西弁の独特のイントネーションで思わず口に出したくなるような気持ちよさがある。

これまでのM-1の歴史の中で、わたしが衝撃を受けた革新的な漫才のフレームは、笑い飯の「Wボケ」だった。二人ともボケて、二人ともつっこんで、それを交互に繰り返すというのは、本当に今までに見たことがなくて圧倒された覚えがある。今回のミルクボーイもそれに近いものを感じ、漫才の中でフレームがハマった時のパワーを強く感じた。

そしてもうひとつ、ミルクボーイ以上に自分の心を鷲掴みにしたのが、今回の本題である「ぺこぱ」だ。詳しくは後述するが、ぺこぱもツッコミが特徴的なコンビだった。相方のボケにのった後に、最終的に肯定するという、全く新しいツッコミを発明したのだ。これを松本人志氏は即座に「ノリツッコまない」と表現したが、その言語化力の高さに、一流の芸人の凄みを感じた。

今年のM-1で注目を集めた「リターン漫才」「ノリつっこまない」のように、流通力の高いフレーズで言語化できる現象は、それだけネタが強いということの表れであり、コピーライティングやネーミングに通じるものがある。番組内では、「M-1話題ワードランキング」としてリアルタイムの検索結果を紹介するコーナーがあったが、そこでも「ノリツッコまない」というワードが入っていた。これも非常に広告的で、例えばプロモーションでtwitterのハッシュタグを考える際に、どうすればトレンドに入りやすいかを考えることに近い。

ちょうどこの記事を書いていた時、まさに銀シャリが〇〇漫才から逆算するかたちで漫才を考えていた時期があったと語っているインタビューが公開されていた。

このように新しく生まれた言葉がどのように世の中に浸透し、人々の認識を変えていくかについては、博報堂ケトルの嶋浩一郎さんが共著として書かれている「欲望する「ことば」 「社会記号」とマーケティング」がとても参考になる。

松本人志氏の「笑うツッコミが好きじゃない」という発言

また、今年のM-1がツッコミの大会であったことを最もよく象徴していたのが、審査員である松本人志氏の発言だった。

一組目に漫才を披露したニューヨークに対して、「笑うツッコミが好きじゃない」とコメントしたのだ。この発言により、二組目以降のコンビのツッコミは、否が応でも自分のツッコミがどのような印象を与えるかを考えざるを得ない状況になった。そして何より、視聴者のツッコミに対する感度が高い状況ができあがってしまったのだ。

そんな状況の中、全く新しいツッコミで最終決戦に残ったのが「ぺこぱ」だった。

「ぺこぱ」のツッコミには今の時代を象徴する「やさしさ」があった

以前、ゼクシィの「結婚しなくても幸せになれるこの時代に 私は、あなたと結婚したいのです。」というコピーについて、時代性を非常によく捉えた優れたコピーであるという記事を書いた。

わたしはぺこぱのツッコミに、このコピーと同じものを感じた。それは今の時代に求められている「やさしさ」の表現だ。

ゼクシィのコピーでは、結婚情報誌のコピーでありながら、結婚しない人を尊重する表現が含まれている。それは、多様な生き方をお互いが認め合う「やさしさ」であり、それが求められる今の時代だからこそ、このコピーが多くの共感を呼んだのだ。

そして、ぺこぱのツッコミにも、相方のボケを肯定するという「やさしさ」があった。例えば、一回戦のネタ終盤に、ボケのシュウペイがステージ下手からセンターに戻る際、ふざけた動きをして戻ってくるというボケがある。一般的なツッコミだと「なんやねんその戻り方!」みたいな感じでツッコむと思うのだが、ぺこぱの場合こうなる。

いや戻り方は人それぞれだ。

これです。このたった一言のツッコミで、多様性を認めて個性を尊重するという今の時代の空気を見事に捉えられているのだ。

そして私が何よりもぺこぱのやさしさを実感したのが、この記事を読んだ時である。

ぺこぱのツッコミの松陰寺太勇は、このやさしいツッコミが生まれた裏側をこのように語っている。

「面白い漫才を作ることだけを考えていて、成り行きでなった漫才だけど、みんなを優しさで包むことができて本当に良かったと思っている。始めたきっかけは、相方に『おかしいだろ』ってツッコむとすごく寂しそうな顔をしていたから

相方にツッコむとすごく寂しそうな顔をするから、やさしいツッコミが生まれたって、そんな優しい世界ありますか?

やさしいツッコミが松陰寺太勇自身のやさしさから生まれていたと知って、わたしは完全にぺこぱのファンになってしまったのだった。

ぺこぱの漫才は新しさと伝統が共存している

そして、ぺこぱの漫才を見ていてもうひとつ気になったのが、現代的なテーマを取り入れる上手さだった。働き方改革、自動運転、高齢化社会など、今世の中で課題になっていることを、とても自然に漫才の中に組み込んでいた。ツッコミの新しさが際立っているぺこぱの漫才だが、現代の問題を扱ったりや社会を風刺することは、漫才において非常にトラディッショナルな手法だ。この新しさと伝統の共存こそ、優れたクリエイティブを生み出す条件なのである。

わたしが関西出身ということもあるが、お笑いは人と人のコミュニケーションを考えるうえで、最高の教材になるものだと思う。広告やUXでより優れたクリエイティブを生み出していくためにも、これからもお笑いからたくさんのことを学んでいきたい。

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