情シスの転職・就職でチェックしておきたいポイント

この note は「corp-engr 情シスSlack(コーポレートエンジニア x 情シス)#2 Advent Calendar 2019」の12月6日のエントリーとして書いております。

毎年IT業界を賑わしている「アドベントカレンダー」に初めてエントリーしてみました。(何やそれ、という方、こちらの説明が分かりやすかったです)

技術系にしようか、それとも海外系の話にしようか、と悩んでいたのですが、私以外にいくらでもプロフェッショナルがいるので、自分以外に書く人が少なそうなテーマってなんだろうと考えた結果、表題のテーマについて書いてみます。想定する読者は、次の職場は/も「事業会社の情報システム部門 (社内SE / コーポレート・エンジニア) 」で働きたい、と思っている方です。もちろん新卒で初めての就職の方にも。

はじめに

私は1970年代後半産まれの4x歳で、今の職場が5社目です。最初の会社はソリューション提供側の会社でしたが、2社目以降、15年以上情シスをやっています。自慢できることはあまりありませんが、G Suite の導入活用は割と得意です。あと、海外拠点にけっこう数多くお邪魔しました。サウジアラビアに行ったことがあるのは、ちょっとレアかもしれません。

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5社目となると、IT職種でもやや転職回数が多いほうでしょう。そのせいもあって、知人から転職の相談に乗ることがけっこう増えてきました。これまで、日本は人材流動性が低いと言われてきたので、キャリアアップのために転職するのは良いことじゃないかなと思っています。ただ、キャリアアップにならない転職をして、本人が不幸になるのは悲しいことです。

そこで、これまでの私の経験をもとに、情シスの働き方を左右する組織の特性について、独断と偏見でチェックポイント的にまとめてみました。どのような事業会社の情シスに所属するかで、働き方はものすごく変わります。将来どうなりたいか?どんな分野を伸ばしたいか?どんなフェーズを担当したいか?を頭に浮かべながら読んでいただけると、参考にしていただけるかもしれません。

最初に言っておきたいのですが、全部が整っている理想の環境というのは絶対に存在しません。4回転職した人間が言うのですから確実です。変えなければいけないところを変えるのも情シスの役割ですし、やりがいです。ニーバーの祈りを唱えましょう。(ここが一番言いたいことなので最後にもう一度書きます)

(1) 会社規模

まずはこれ。大企業情シスと中小企業情シスの最大の違いは「一人がカバーする範囲」です。大企業の情シスは「販売システムチーム」「生産システムチーム」「インフラチーム」「ヘルプデスク」など、担当分野に応じてチームが分かれていて、それぞれにマネージャーと担当者がつきます。一方で中小企業は、数名でこれらを全部担当している場合が多く、会社によっては、いわゆる「ひとり情シス」が全部担当しているケースも多いです。

ある分野を深堀りして極めたいと思っている方は、大企業の情シスのほうが向いているでしょう。特定の分野で尖ったSEになることはSEとして素晴らしいことですし、それが実現できる環境は狙わないと手に入れられません。

逆に中小企業の情シスの良いところは、ひとりのカバー範囲が広くなる分、幅広い分野が担当できることです。CRMも調達EDIも設計BOMもWi-Fiも全部自分のところに…となるケースも。「ひとり情シス」というと何やら悲惨な香りが漂いますし、もちろん大変だとは思いますが、悪いことばかりじゃないと思います。

個人的には「超・大企業」の情シスで「外のモノサシ」を意識しないままに特定分野をずっと続けるのは怖いと思っています。(「外のモノサシ」はこの方の本から引用した表現です。)どうしても役割が細分化されるため、ごくごく狭い範囲の専門家になってしまい、気づくと他社で通用しないスキルになってしまっている可能性があります。私は以前大企業に勤めていて、転職する際にエージェントに言われた一言が忘れられません。「あなたは宇宙戦艦ヤマトのいち乗組員として極めて優秀です。ただ、それが他のどの戦艦で求められる技量でしょうか?」

(2) ビジネスモデル

所属する事業会社のビジネスモデルです。BtoBなのか、BtoCなのか。製造なのかサービスなのか小売りなのか。マーケットは国内のみなのかグローバルなのか。オフラインなのかオンラインなのか。ビジネスモデルによって、何がITに求められるか、ITでどう収益に貢献できるかは大きく異なります。

例えば BtoC のECサイトを運営するような企業であれば、サイトの停止が直接的に機会損失・収益低下・ブランド価値低下に繋がりますので、高い可用性をもったサイト構築が必要です。扱う情報も消費者の個人情報満載なので、情報セキュリティ対策にも万全を期す必要があります。

グローバルにサプライチェーンを展開しているような企業であれば、ITがサプライチェーンの生命線となるケースもあるでしょう。システム設置場所・アクセス経路の検討、マスタデータの統一化、国別の商習慣・法制度や時差を考慮したオペレーションの検討…など、考慮すべきことは多岐にわたります。

情シスがITを使ってどう貢献するかは、働きがいに直結するところなので、各企業のビジネスモデルが重視するIT分野と、自分がやってみたいIT分野とがマッチするかどうか、よく確認しておきたいところです。

(3) 複数事業 or 単一事業

所属する事業会社が複数の事業を持っているか、それとも単一の事業で勝負しているのか、です。ある程度の規模の企業であれば、創業以来のメイン事業と、そこから派生したり買収したりしたサブ事業があったりして当然だと思います。

単一事業の会社は、その事業が何らかの理由で低調になると、当然会社全体が影響を受けます。複数事業を保有している会社は、ある事業が低調のときは別の事業で収益をカバーしたり、ということが可能で、安定した経営基盤を築くことができます。

一方、ITの面から見ると、業務プロセスの大きく異る事業 - 例えば見込み生産、受注生産、サービス業 - が混在しているような場合、同じシステムで業務を回すのが難しくなり、事業部ごとに別のシステムを用意しなければいけないことになるかもしれません。また、収益性が大きく異なる事業部が存在すると、全社共通のインフラ費用を各事業部に配賦するとき「おいおいインフラ費高ぇよ、うち儲かってないんだからしんどいわ」と言われるかもしれません…(経験あり)

(4) 内製派 or 外注派

システムの構築や運用を自社要員でやるか、社外に発注してお願いするか、というものです。

従来から、諸外国に比較して、日本のIT導入は外注丸投げ傾向が強いと言われてきました。「上流」と呼ばれる企画や要求定義を情シスが行い、「下流」と呼ばれる設計や実装、運用は外注先のSIerが行うという構図です。ですが、この構図には数多くの問題が潜んでいることは多くの書籍やWeb記事などで指摘されています。詳しくはこの方の本を読んで頂くと理解が深まると思います。

個人的には「主体性、ノウハウ蓄積、スピード感」の3つが問題だと思っています。外注丸投げ気質の情シスは、何か問題が発生した時に「XXX社の対応が悪くて」と外注先のせいにしがちです。それを聞いた経営者や事業部門のメンバーは「この情シス使えねぇ…」となって、情シスをパスして直接外注先に発注するようになり「情シス不要論」が組織内でささやかれ始めます。ノウハウが社内に蓄積されないのも問題です。また、クラウドソリューションが主体となった今「クレカさえあれば5アカウントから買って試せる」時代なのに、外注先に提案書を書かせてコンペして…ではスピード感も出ません。

もちろんネットワーク工事まで自分たちで全部やるというのは厳しいでしょうが、少なくとも「押さえるべきところは社内で理解した上で外注する」という方針の情シスでないと、今後の組織と個人の成長は望めないでしょう。

(5) 従業員のITリテラシー

…実は、ITリテラシーという言葉はあまり好きじゃないです。ソリューションのデリバリーが下手な情シスが、責任を相手に転嫁するときの常套句だからです。それはさておき、従業員のITリテラシーが情シスの仕事のスムーズさを左右するのは確かです。

そもそも事業会社の本業がソフトウェア寄りだったりすると、情シスと遜色ないITリテラシーを持った方が多いので、ちょっと説明すればあとは勝手に使ってくれる、となって楽かもしれません。その分想定していないような使い方を試みられて大事故に繋がる恐れもあるので要注意ですが…。

パートの方が多い職場や、平均年齢の高い職場などでは、例えば iPad アプリの導入が「タップのしかた」から説明しなければいけない可能性もあります。最初はちょっと大変かもしれません。個人的にはそういう方々が使いこなしはじめてくれたときの喜びのほうが大きいので、「よっしゃ絶対に分からせたる」と思ったりもするのですが。

(6) セキュリティや新技術に対するスタンス

個人情報を取り扱っている企業や、金融系企業の情シスをやっている友人の話を聞くと、セキュリティに対する厳しさは相当なものがあると感じます。また、新しい技術の採用に対しても、かなり慎重である様子。もちろん、個人情報をはじめとした機密情報を守るために、強固なセキュリティ対策は必要ですし、顧客からもそれを求められるでしょう。

ただ、クラウド全盛のこの時代において「あれも禁止、これも禁止」という組織に行くのは、ちょっと辛いなぁとも感じます。SNSへのアクセス禁止、パブリッククラウド禁止、メールはオンプレサーバー、リモートアクセスは厳しく制限…などなど。とある銀行さんに「Web会議しましょう」と言ったら「うちはWeb会議だめなんです…」と言われたときはびっくりしましたね。新技術へのキャッチアップも遅れてしまうかもしれません。

(7) IT投資決裁ルール

どんな会社にも決裁ルールが存在します。「XXX万円までは部長決裁、XXX万円以上は社長決裁」「XXXに関する投資は情シスで、XXXは事業部で、子会社の場合は…」「設備投資の場合は…経費の場合は…」などなど。

個人的には、クラウドの時代になって、初期投資額がガクッと下がったので、スモールスタートで試してみる分にはそんな大層な決裁にはならないはずです。数十万レベルなら、部長クラスでぱぱっと決裁が取れるようなルールだと非常にやりやすい時代かなと思います。これが「10万以上は本部長」とかだとけっこうしんどいでしょうね。

(8) CIOの存在

CIO (Cheif Information Officer, 最高情報責任者) の定義はさまざまですが、ポイントは、CIOは経営幹部であり情報システム部長ではないことです。情報システム部長はITにコミットする役割ですが、CIOはビジネスとITの両方にコミットする役割です。情報システム部長はビジネスから求められたITを整備しますが、CIOは経営幹部としてビジネスそのもののあり方を考え、それを実現するITのあり方を考えます。情報システム部長は「それはビジネス側で考えてください」と発言しますが、CIOにそれは許されません。

CIOの存在しない組織では、社長と事業部長がITベンダーの営業に乗せられて場当たり的なシステムの導入が決定され、情シスがそれをブツブツ言いながらお守りする…というようなことが起こりうるでしょう。CIOが存在する組織であれば、そのシステムの導入が経営効果や全体最適の視点から適切であるかどうかを、社長・事業部長・CIOが「ビジネスの言葉」で議論して意思決定されるでしょう。

CIOがいてもそれが実現できていないのであれば、それは、メインの管掌職務のある役員が片手間でCIOをやっているような「なんちゃってCIO」でしょう。昨年の総務省の調査によると、日本のCIO設置率は11.2%らしいです。この手の調査結果は実施した団体や企業によってえらくバラツキがあるのでどこまで本当かは分からないですが、私の周囲を見渡しても、設置されている企業は少ないなーという印象です。経営トップがCIOの必要性に対して理解がないか、あるいはCIOに適した人材がなかなか見つからないのかもしれません。

(9) 日系企業 or 外資系企業

私自身は外資系企業で勤務したことがないので、あまり実感をもって語れないのですが、周囲の話を聞いていると、やはり以下のような印象を受けます。

外資系:トップダウンが効いて、個人主義・成果主義のドライな人事
日系:現場の発言権が強く基本ボトムアップ、協調性重視のウェットな人事

このあたりは好みの問題もあるでしょうが、外資系企業のほうがCIOが設置されている可能性は高いでしょうね。

外資系の情シス勤務で注意しなければいけないのは、「日本法人の情シスは本国CIOのトップダウンの指示を聞くだけの組織」となっているケースもあることです。もちろん、トップダウンできっちりものが決まるのは良いことですが、反対勢力がありつつも、自分たちが主体で経営と議論して物事を決めたい…と思っている場合、外資系の情シス勤務では物足りない可能性もあります。

おわりに

長くなってしまいました。今回書いた項目が全てとは思いませんが、情シス勤務を志す場合、チェックしておいて損はしない視点だと思っています。情シスへの転職・就職を考える人の職場選びに少しでも参考になれば幸いです。

「はじめに」で書いたことを再掲しますが、全部が整っている理想の環境というのは絶対に存在しません。以前働いていた職場を退職する際に、尊敬する先輩がニーバーの祈りを紹介してくれました。

神よ、変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。
変えるべきものを変える勇気を、
そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えて下さい。

今回書いたチェックポイントは、どれも前提条件で変えられなさそうに見えますが、ものによっては変えることもできます。外注から内製へのシフト、社内決裁ルールの変更など。「CIO のいない職場」で「社長にイケてる CIO を採用してもらう」のは大変なことですが、ITにちょっと明るい事業部のボスを味方につけて「ビジネスの言葉で議論できる情シス担当」になることは、決して不可能ではありません。

まずは与えられた条件のもとで、変えるための最大限の努力はしてみましょう。それでも駄目なら転職ということで。

ちなみに、この note では「そもそも、コンサルタントやベンダーではなく、なぜ情シス勤務を選んだのか」という問いには触れていません。これを書き出すと長くなってしまいますが、私が情シスの採用側なら聞いておきたい質問の一つですね。これはまた別途。

今年も終わりですね。師走の忙しい時期を乗り越え、来年も実りある情シスライフにいたしましょう。