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3-5.ひとりひとりが書く答辞P

「答辞」というと、どんな風景を思い出すだろうか。
多くは、卒業式の講堂・体育館で、卒業生の代表として一名が3年間を振り返っての答辞を読むシーンを思い浮かべるのではないか。
セレモニーとしての答辞は、時間的なこともあり、選ばれた一名が作り読む。だが、それとは別に「卒業生それぞれが3年間を振り返り、自分の思いを答辞として書かせたい」。そんな思いを持った先生からの依頼があった。

2010年2月19・22・25日、N中学校 3年生5クラス、5クラス×10時間

<卒業を前に「ひとりひとりが書く答辞」を平均40名の大学生が、テーマ・エピソードの発掘・選択から文章にするまでをファシリテートした。>


学校との企画調整

依頼をくださったN中S先生は国語科の先生で、N中にはその前にも3回書くPで入らせていただき、書くPで大学生が入り、中学生と関わる状況をご存知の方だった。大学生と関わることで、中学生がその子らしい答辞を書くことができるのではないかと考えられたようだった。

日程は、私立入試の終わった「2月6日以降」、「総合の時間4時間を使う」という条件がある。

大学生は、春休みに入っているため20名程度の参加だろうと見込んでいた。となると、5クラスだと1クラス当たり5名の大学生となる。これでは文章のチェックまでの作業は難しい。
そこで、大学生が答辞作成のどの部分を担当するのか、大学生に期待する効果はなにかをS先生、校長先生と協議し、細かいところを詰めていった。

中学から答辞作成に関して求められているのは、
・書いた人が見えるような答辞。
・人となりがわかるような答辞。
・3年間の振り返りだけでなく、どんな高校生になりたいか、自分自身へのメッセージ、在校生へのメッセージなどがあってもいい。
というものだ。
確かに現行のものは、どれも同じ書き方で、どれを読んでも同じようにみえる。形式的なものであること、3年間の行事を追うものが多いので、どうしても同じようになってしまう。それには利点もあって、代表の一人が語る3年間の行事には、ほかの人もそんなこともあった、あんなこともあったと自分を重ねていける部分もある。

書くPは、「個々の思いを深く掘る」ワークを実施するため、これまでの書くPのスタイルで従来型の答辞に対処しようとすると、複数の行事に対してエピソードをそれぞれ立てることになるので、掘る時間がかかりすぎる。が、エピソードを立てないと一般的な答辞になってしまうというジレンマがある。
また最初に行事の柱を多く立てた子が答辞の対象に最初から決まってしまう可能性もあり、こじんまりとまとまってしまう懸念もあった。

以上を考えながら、3つの提案をN中学校に行った。
A案:複数人を選び、リレー方式で答辞を行う。1つのエピソードに1人。
B案:書くPスタイルで、エピソードを1つに絞り込んで自分の思いを答辞として書く。卒業式当日の答辞は、学校の意向に沿う形にリメイクしてもらうなり書き足してもらう。
C案:複数の行事を書きつつ、それらを貫くメッセージや思いをつづる。

中学に検討してもらい、B案が採用された。
また大学生の役割と期待することとして、「中学生との対話により答辞のテーマ設定、何を書くか・思いの掘り出しによる、その子らしい思いの表出をさせること」がメインであることを確認した。

大学生が企画を練る・理解する

さて、学生とのプログラム作りに入る。

私とT先生は、商学部の中で特別講義「表現する力をきたえるプログラム」(通称表P)を、2008年度の書くPを始めたとほぼ同時期から開講していた。

※「表現する力をきたえるプログラム」は、「表現する力をつけたい、高めたい」と思う学生に対して、「試行錯誤の中から自分の表現力の強みと弱みに気づき、自分なりのスタイルで表現する勘所を掴む場と機会を提供する」ものです。特に「書く力をつける」ことで達成度が計れるように設計されています。 

課外プログラムの書くPと表Pとは、根本的なエッセンスは同じものであるため、表Pの中でも書くPの内容を題材に討議することがよくあった。

2009年の12月の表Pの講義では、N中での答辞Pの企画について考えてもらうワークを行った。
この時に私が書いたブログがあるので、一部を拾ってみる。
~~~
N中の答辞Pの条件設定は、以下の通り。

・中学3年生が卒業時に「答辞」を作成する。
・3年間の中で思った感じた、誰かに伝えたい思いを「答辞」として書く。
・一番の訴求要素は「書く人の顔が見える文章に」。
・文字数としては2000字を想定(ただし一つのこと~エピソードを凝縮して伝える場合はその人の顔が見える内容なら800字程度でもOK)

先週は4班に分かれて、
上記の条件を提示した中で自由に意見を出し合い、
班でまとめて発表してもらった。

その内容を、内容別に私の方でまとめてみた。
=====
<初期確認>
<テーマ設定>
■何をテーマにするか
■テーマ設定の促し方
 <時系列型>
 <直観型>
*まとめ方
■書く材料集め
■シート
■表現方法
====

いったん、こういう形でまとめてみたものを見ると、
ほかにないのかというのが思考しやすくなる(と思う)。

それで再度班に分かれ、項目ごとにこれでいいのか、ほかにないのか意見を出し合う。
今回、自主的に有休とってきてくれた今年の卒業生、E頭くんとD徳くんにも入ってもらう。彼らは書くP・表Pが始まった頃から参加してくれている経験者たちだ。

まず、<初期確認>として、
・伝えたい相手を設定(お母さん、○○ちゃん、後輩・・・)
・何を伝えるか(感謝、頑張ったこと・・・)←テーマ設定時に再度確認。

が出ていた。

まず「伝えるべき相手を設定する」と、書くべきことやスタイルがイメージしやすい。
これは過去の表P・書くPを経験している子たちにはスムーズに理解できるものだった。ほぼ満場一致。

「誰に対して」については「お母さん、と決めた方が書きやすい」「でもお母さんいない子がいたらいけないから、両親の方が」「でもそれじゃイメージしにくくない?」等々意見がでているようだ・・・
いろんな意見があっていいし、まずはたくさんの意見を出してみることを優先する。

と、
「この伝えたい相手は、人じゃなくてもいいと思うんです」とある班。

人じゃないってじゃあどんなもの?

「人じゃなくて、モノでも。例えばお世話になった”机と椅子”。”上履き”とか。」

いいぞ、いいぞ~!
こういう発想が出てくるのを待ってました!

・書く目的をはっきりさせること
というのも出た。

何のために書くかをはっきりさせた時、目指す目的が自分の中でできるという回路を作ることは必要なことだ。
表Pでは何度も言ってきたことなので、
これが学生から出てきたことは、正直嬉しかった。
(必ずしもこの「何のために」がいつもはっきりするわけではない。エピソードが先にうかび、そこにたどるという流れもある。要は誰に何を伝えたいかがはっきりみえればいい)

初期設定を終わらせ、何を書くかに入る。

「何をテーマにするか」と「テーマ設定の促し方」については、
出てきたものから整理をつけていけばいいので、
すこし自由に出してもらう。

何かをまとめるというよりは、
自分たちの中学時代に思いをはせ、「何があったかな?思い出すシーンは?」「中学特有のことは?」「意識が変わった時期がある?」「その時には何がどう変わった?」「やっていたことは?」・・・と問いかけていく。

<テーマ設定>
・先生への注文・メッセージ
・通学路
・遊んだ場所
・学内の場所
・敬語をつかうようになる
・おとなしくなる
・先生との出会い
・プレゼント交換
・交換日記
・本との出会い(貸し借り)
・背伸びをしたこと
・風紀検査
・私服の着こなし
・かっこいいの基準が変わる
・他学年への影響力(最高学年時)
・プライド~自我の目覚め
・交友関係
・塾・習い事での関わり(友達・先生)

だんだん細かいのが出てきた。
このあたりは、どこまで全体に提示するか、どこからを「個別に掘る場合の手持ちネタ」とするか、整理する必要があるだろうが、
今回全体として共有できたことは、非常に意義があることだ。

というのは、こういうアイデア出しは、
以前も書くPの現場ではよく出ていたことなのだが、残念ながら全体共有はできていなかった。
何度も、MLで共有してねという話をし、実際にML上でも出ていたが、
自分の班での共有・運営が優先(そこに集中してしまう)になって、
せっかく出ている情報が共有できない、というジレンマがあった。

共有することで、当然ながら4.5人の頭より20数名の頭からの意見やアイデアが出て共有される、
共有されるから、またそこから新しいものが出てくる。

~~~~

この日は何をテーマにするかのアイデア出しに終わった。
こういうことを繰り返しながら、プログラムは作られていく。
プロジェクトに入っていない子にも、この思考プロセスは学んでほしいと思ったので講義でもやっていた。拡大MTGみたいなものだ。
プロジェクトメンバーからすれば、決まったメンバーの中で頭をつき合せていくと同質化したものしか出ず、行き詰まることも多い。そういう時にこれまでの流れを知らない人の意見や声は、思いがけない突破口になることもある。


































「答辞」というと、どんな風景を思い出すだろうか。
多くは、卒業式の講堂・体育館で、卒業生の代表として一名が3年間を振り返っての答辞を読むシーンを思い浮かべるのではないか。
セレモニーとしての答辞は、時間的なこともあり、選ばれた一名が作り読む。だが、それとは別に「卒業生それぞれが3年間を振り返り、自分の思いを答辞として書かせたい」。そんな思いを持った先生からの依頼があった。

2010年2月19・22・25日、N中学校 3年生5クラス、5クラス×10時間

<卒業を前に「ひとりひとりが書く答辞」を平均40名の大学生が、テーマ・エピソードの発掘・選択から文章にするまでをファシリテートした。>

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