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スカイツリーが誕生する前 小さな本屋で暮らした話し

おじいちゃんは本屋さん

昔ながらの本屋さんが好きだ。びっしりと本が並んでいる、人が通るにもやっとな、本棚と本棚に挟まれている狭い空間が。しかし本屋は好きだけど、私はちっとも本を読まん奴。
矛盾しているけど、意外と昔ながらの本屋さんから「本、読まん」って聞くことがある。そして私が本屋を好きな、理由がある。

私のおじいちゃんは、下町の本屋さんだった。おじいちゃんが好きだったから、本屋が好きなのだと思う。
今のスカイツリーから川を渡ってすぐのところに、かつて存在したパチンコ屋と焼肉屋にギュウギュウに挟まれた小さな本屋。
おじいちゃんは学校の先生だったけど、戦争から帰ってきて本屋になった。
私達孫が生まれた時には、既に本屋は引退していたけどそのまま本屋の2階に、大家さんとして1人でずっと住んでいた。
私達と会う時は、必ず本を何冊も買ってきてくれて

「本屋のおじいちゃん」と私は心の中で呼んでいた。

おじいちゃんは「小学館の学年別学習雑誌」を毎月買ってくれていた。「小学三年生」とか。漫画もいくつか載っていて「あさりちゃん」とか、親が納得する安心・健全・優良雑誌。
買ってきてくれるのは嬉しいし、有難いのだけど、周りは漫画雑誌の「りぼん」とか「なかよし」を買い始めてたので、ある時おじいちゃんに「りぼん」を買ってとお願いした。恋愛漫画99%なので「ちょっと早いんじゃないの?」と母は思ってたらしく、とりあえず1回お試しで買ってきてもらうことになった。
孫3人分の本を買って、更に1冊は分厚い漫画雑誌。おじいちゃん、毎回電車に乗って重かったよね。
その日は、すごくワクワクしてりぼんを受け取った。内容は忘れちゃったけど、手をつなぐかキスシーンがあって母から即
「却下。」を言い渡され、あえなくたった1度きりとなってしまった。
こうして、おじいちゃんが亡くなるまで「小学〇年生」の健全雑誌を読み続けることになる。

おじいちゃんが残した本屋

おじいちゃんは、私が小学6年生の時に亡くなった。大好きで、スマートで、かっこよかったおじいちゃん。
「じゃ、またな」って帽子を被って、颯爽と帰る姿を思い出す。
いつか、お姉ちゃんとおじいちゃんちに泊まった時に、誰かから電話が来た。
おじいちゃんは「今な。孫がライスカレー作ってるんだ」
と言っていた。
子どもながらに「おじいちゃん嬉しそうだな」って思った。

そんなおじいちゃんのうちが、空っぽになってしまった。

本屋さんは既に知り合いの方が継いでいたけど、おじいちゃんちが空き家になってしまう。
結局おじいちゃんの息子である父率いる、わが家族5人がおじいちゃんのうちへ引っ越すことになった。

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