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鹿児島の天然記念物を見に行きました。

人混みが苦手だ。都内に住んでいた高校時代、サッカー日本代表の試合直後で盛り上がる渋谷で集団にもみくちゃにされたことがある。塾帰りの私は味のなくなったガムのような抜け殻になって家に帰った。それ以来フェスも満員電車も苦手だ。そんなこともあり私の趣味はランニングやサイクリングになった。この間も90kmのサイクリングに行ってきた。

その途中で見たでっかい楠の木、あれはどうやら国の定める特別天然記念物だったらしい。通称「蒲生の大クス」は全国調査で国内最大の巨樹として認められ、アマミノクロウサギや屋久杉に肩を並べる存在なのだ。なんと鹿児島県は70ある特別天然記念物のうち7つを擁している。

本土最南端という立地のためマングローブの北限やツルの越冬地等、日本で、いや世界でここでしか見られない自然の営みが沢山ある。これを見ない手はない。そう思うでしょ?

私は鹿児島県のHPにアクセスし国指定天然記念物リストを眺めた。すると10月、11月しか見られない天然記念物の花があるという情報を掴んだ。木の根元にのみ白く可憐な花を咲かせるその植物の名前はヤッコソウ。日本だと四国と九州の一部にしか生息しない貴重な植物だ。

こうしてはいられない。10月29日、世間がハロウィン前夜で浮かれているのを横目に私は1人山奥へ向かった。

10月29日9:00 刀剣山登山口

フェリーと自転車でおよそ1時間、私はヤッコソウの群生地があるとされる場所に向かった。その名も猿ヶ城渓谷刀剣山。猿、城、渓谷、そして刀剣と男の子が好きな単語を並べまくった山だ。ハンバーグオムカレーみたいだ。物騒な名前だが標高は600m少しとそこまで高くない。600mといえば高尾山と同じくらいだ。

登山道は整備されており歩きやすい。9月の台風の影響か何本か倒木もあったが道標が十分にあったのでスムーズに進むことができた。人の気配が一切ない。ハロウィンの渋谷と真逆の場所はここかもしれない。

登山口を入ってすぐにホトトギスの花が咲いていた。「永遠にあなたのもの」というヤンデレ花言葉を持つ花だ。独特の斑点のあるユリを贈られたらゾクっとするだろうな。そんな想いを込められた花も気の毒だ。

10:00 6合目地点

名前に「刀」や「剣」とつく山は珍しくない。日本アルプスにも剱岳や宝剣山があり大抵剣のように尖った峰がその由来となっている。この刀剣山もかこう岩が作る切り立った岩肌が見えるところがある。

だからこういう鎖を伝って登るところも全然ある。リポビタンDのロケ地みたいな場所に1人できてしまった。足を滑らせたら最後、ファイト一発する相手もいないので落下するしかない。600mの山とは思えぬ険しさだ。

鎖場は思いの外長く崖の途中で休憩した。自分が落ちたら死ぬ場所にいることから目を背けるように遠くの錦江湾を眺めた。距離は大したことなかったがだいぶ時間をかけて登った。下りのことは考えたくなかった。

モウセンゴケ

湿った岩壁にはモウセンゴケが生えていた。細い葉先についた粘液で虫を捕らえる食虫植物だ。かつては東京にも生息していたが生息地の減少で絶滅してしまった。関東で生き残っているものはほぼ全て絶滅危惧種に指定されている。歩いているだけで希少な植物にガンガン会える。なんて素敵な空間なんだ。

11:20 刀剣山山頂

見晴台の看板

植物を眺めながらしばらくすると山頂に到着した。見晴らしはそこまでだが腰をおろしてお弁当を腹に入れた。いよいよ今回のメイン、ヤッコソウの群生地に向かう。別に山に登らなくても群生地には行ける。

ヤッコソウはシイの木など根元にしか生えない。それは彼らが木の根元から栄養を吸い取る寄生植物だからだ。自分では一切光合成をせず葉緑体も持たない。かつては同じ寄生植物のラフレシアと同じグループに分類されているが現在はツツジ目に分類されている。

朽ちた第4休憩所。

群生地まではほとんどノンストップで進んだ。下りの鎖場で止まるのは危険だし、休憩所は台風による倒木で軒並みズタボロだった。座り込まずにこまめに水分補給をしながら1時間ほど歩くと群生地にたどり着いた。

釘まみれの丸太だけになった第5休憩所


立派な看板があった。

12:40 ヤッコソウ群生地

ヤッコソウの花は小さい。白く可憐な花はシイの木の根元にしゃがむと姿を表す。

やぁ。

あった。

これがヤッコソウ。思ったよりわんぱくな見た目をしている。大名行列の奴(やっこ)に姿が似ていることから名付けられたそうだがいまいちピンと来ない。とはいえ木の根元にちょこちょこ生えている様子は可愛らしい。

わさわさ生えている。

まだ時期が早く開花しきっていないヤッコソウもいた。早くおおきくなるんだよ。また来年花が咲く頃にまたこよう、そう思い私は群生地をあとにした。

登山口に戻り近くの温泉で汗を流した。この辺りはラドンやラジウムが豊富に含まれる泉質らしく湯治客で賑わっていた。森で1人ヤッコソウに囲まれていた時間を思い出しながら私は温泉を楽しんだ。

次回紹介する鹿児島の天然記念物は 
「うしうま」
「北限のマングローブ」
「臥龍梅(がりゅうばい)」
のどれかです。皆さんお楽しみに。

おわり

【参考文献】
・生物情報収集 提供システム いきものログ
https://ikilog.biodic.go.jp/LifeSearch/detail/?life_darwincore_id=9945506
・東京都の保護上重要な野生生物種(本土部)
http://www.senbori.com/downloads/red.pdf

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